ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第32章 私のヒーロー
艶々と長い彼の黒髪が朝日に照らされてキラキラと流れる
彼はまるでテントを背に守るように、見た事も無い巨大な恐竜と対峙していたのだ
恐竜の大きさは2トントラック程あるだろうか……
私は本能的な恐怖に身を固め身体を震わせながらも彼の姿から目が離せなかった
恐竜と私の間に立ち塞がった彼はゆるゆると頭を掻いていた
………表情は見えない………だけどその背中から滲み出る雰囲気はただ普段と変わらぬ飄々としたものだった
「グギャアアアアア!!」
野太い鳴き声をそのままに大きく開いた口にはおびただしい数の鋭い牙が並び今にも彼を丸呑みしそうに飛び掛かる
………避けて!!!!そうよぎった時には彼の背中を私の目で捉える事は出来なかった
次に視認出来た時には、ただ長い髪がフワリとなびいた瞬間にその巨体が軽々蹴り上げられていたのだ
ボコンッ!!!!と重たい衝撃音と共に口から吹き出された血は、その巨体を物語るように赤い雨を降らせる
ギャアッ!!と断末魔を響かせた恐竜はプツリと力を無くし天高く空を舞う
瞬間フワリと跳び上がった彼の身のこなしは重力すら感じさせない程に軽かった
一滴の返り血すら浴びていない涼し気な無表情、無駄を削ぎ落とした所作の全てが洗練されているのだと感じる
軽く恐竜を追い越して跳び上がった彼は悠々標的を見据えると美しい曲線を描いて振り下ろした拳で巨体を地面に沈めた
ズシンと地面が揺れた衝撃に思い切り飛び上がった私は心底怯えながらも、まるで映画で見るような現実味無い光景に見入っていた
そんな現実離れした光景を作り出したのは紛れもなく愛しい彼で
完全に伸び切った恐竜の頭部をガッツリ踏み締めた彼の姿は鋭さを多分に含みながらも品を漂わせていた
「丁度いい、朝食にしよう。」
なんて普段の調子で言った単調な声に私は、腰が抜けて動けぬまま拍手喝采感謝感激を叫んだ