ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第31章 馬鹿は黙って漕ぐ
「考えてみてください、エンジン役ですよ……イルミさんのひと漕ぎでめっちゃ進みますって……」
しかし彼は飄々とした態度をそのままに言を発した
「あのね沙夜子、カヌーの前方は風や水流の影響を受けて左右に持っていかれない程度の推進力しか求められていない。つまり、がむしゃらに漕いでバテるんじゃなくて長くゆっくりと進めるのが正解なんだよ。もっと肩の力を抜いて。」
「…………でも……」
彼が担当するのはカヌー後方、舵取りの役割
………私の漕ぐ回数よりも彼の漕いでいる回数の方が随分少ない気がするし……なんて私の甘えた思考は簡単に読まれてしまっていた様だ
彼はふうっと息を吐き出した後に間の抜けた声で淡々と解説を始めた
「後方も前への推進力を補助するからそれなりに漕いでるよ。その上で風や水流で進路がブレるのを微調整するラダーを入れている。」
突然飛び出した専門用語に疑問符を浮かべながらも彼の声を背中に聞く
「さっき風が強かったでしょ。」
「……はい」
確かに先程強い風が吹き、カヌーが多少ブレた場面があったのを思い出す
「強風や流れが強い時には進路がブレる、舵取りには一般男性レベルのパワーが必要だ。よって前方は沙夜子、後方は俺がベストだ。」
なんて言い切った彼は、他にも舵取りには知識や経験が必要である事を説明する
力が無く更には知識の無い人物に舵取りを任せたなら途端にカヌーは転覆し、底の見えない川の濁流に飲まれてしまうのだと………
「ま、転覆させたいって言うなら沙夜子に後方を任せるよ」
…………つまり頭の良い人や経験者は舵取りに向いていて馬鹿は黙って漕いでいろという事らしい
(……………何も言い返されへんってこんなにも虚しいんやなぁ…………)
そんな私の気持ちを知ってか知らずか
「さっきより随分良くなったね、その調子でゆっくり漕いでごらん。」
ムチの後に即座に挟み込まれるアメに私は無意識下で有りもしない尻尾を振ったのだった
「こんな感じでしょうか!?」
「うん、腕の疲労具合がマシでしょ。」
「ほんまや!イルミさん凄い!!」