ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第31章 馬鹿は黙って漕ぐ
彼が相手をしているのはまだ生後数ヶ月の娘だというのに対等に対話する彼の姿は何とも………
「愛菜にはまだ分からないだろうけど、夜は眠る時間なんだよ。俺も寝るし沙夜子も寝る、だから早く寝な。」
気怠げに髪をかき上げながらベッドルームへ向かう背中
不思議だ………娘に接する彼を見ながらも、その生活感の無さに驚いてしまうのだ
衣食住を共にしながら何を馬鹿なと思うかもしれないけれど、赤子の泣き声がする空間に平然と彼が存在する事が酷く異質に見えるのだ
何というか……全く所帯染みていない……
子持ちですと言われるよりも独身ですと言われた方がしっくりくる佇まいなのである
だけど確かに愛情は感じる………つまり彼は今日も今日とて素敵な旦那様であり素敵な父親なのであった…………
そんな私達は今夫婦水入らずで熱帯雨林にいる
もっと正確に言うなら私は彼と2人きりで陽気なオレンジ色のカヌーに乗り込み、酷く濁った川を漕ぎ進んでいる
どうして私達がこんな意味不明な事になっているのか辿るなら、彼の仕事先が超秘境であり幼子を連れて行けない事
そして超秘境への移動手段が2人揃って初めて予約可能なカヌーの1択しか無い事にあった
慎重な彼の事、どうやら色々なツテを当たったそうだが仕事柄協力者が多い訳も無くランさんに娘を預けて同行する事となったのだ
散々お世話になった上に長期の子守まで……なんて申し訳無く思っていた私に彼女は『何言ってるの、あたし年契約でイルに雇われてるんだから!たまにはリフレッシュして来なさい!』なんてあっけらかんと笑った
全然知らなかったけれど、確かに彼女は彼の不在時に度々私の元を訪れては沢山の育児グッズをプレゼントしてくれていた
圧倒的に不在の多い彼、2週間の不在なんてザラだ
その間私が不安にならぬよう、切羽詰まらぬように気遣ってくれていたのだと知った
すっかり彼女の好意だと思っていた事は彼なりの優しさだったのだ
確かに感じるものからランさん自身の好意も存分に感じているので今回聞かない限り私は何も知らないままでいただろう……