第29章 はじめまして

通常ゾルディックに子が産まれるその時はゾルディック邸内にある施設で取り上げられる

それはあの子も例外では無く、あの子の弟達だって皆そうだった

しかしそうはせず、今やゾルディックと何の関係も無いあたしを頼る辺り本邸には秘密裏に対処しようとしているのだと察するのは容易かった

ゾルディックの内情を知りながら手に入れた自由にはそれなりの対価が必要だった

あたしが手を貸したとゾルディックに露見すれば必ず消される事になるだろう

それにイル……貴方だって沙夜子ちゃんだって………


「……あたしを頼るだなんてどういう事？そういうのは立派なお家を頼りなさいな」
　

確かに彼女には暗殺者の素質どころか何の能力も無かった

ゾルディック家が認める相手では無いだろう事は一目瞭然で……だけど愛し合う2人を見てただ愛し合う分には自由な筈だと口を閉ざした
　


………だけど今回は話が違う




ゾルディック家の了解を得ずゾルディックの血を引く子を成し、産み落とそうとしている


既にあたしはゾルディックと何の関わりも無い身だ、だけど黙認するにはあまりにも危うく感じた

沈黙の間に察しの良いあの子はあたしの意図を汲み取っている

しかし返ってきたのは強い意志だった


『それは出来ない。』


「どうして」


『生まれるのはゾルディックじゃない。』


「……何言ってるの？」


『ただの俺と沙夜子の子供だ』