ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第27章 マタニティーブルー
ガチャリと扉が開いたのは丁度そんな事を考えている時だった
「ただいま。」
無機質な声色が疲れの色さえ滲ませずに響く
"お帰りなさい!"いつもの私なら彼の元へと急いで………彼に危なっかしいとどやされたりする筈だったのに………
私は咄嗟に俯いて、当たり前の言葉を喉に詰まらせた
既に涙腺は決壊して頬からは意識とは裏腹な涙がポロポロと零れ落ちて行く
其れを隠す様にタオルで顔を埋めながら私は泣き声を殺すのに必死だった
「沙夜子……具合悪いの?」
私の普段とは違う雰囲気に彼の声は予想よりも早く直ぐ傍にやって来た
「沙夜子?!」
彼が隣にいてくれたなら………先程迄其れを強く望んでいた私は次に溢れた感情にギリギリと奥歯を噛み締めた
彼の声から単調さが抜けて私の肩はその手により緩やかに、しかし力強く押し上げられる
彼に負担は掛けたくない
彼は十分に私達を愛し守ってくれている
その為にも今の状況は必然で
私の我が儘をぶつけるのは間違っている
頭の中では理解していても
私の心は叫んでいた
凄く不安なのだと
傍にいて欲しいのだと
その葛藤がぐちゃぐちゃに絡まって情けないくらいに泣けてくる
何て理不尽な人間なのだろう
そんな事をしたい訳じゃない
本当は無事に帰って来てくれて嬉しいだとか、此所からの景色が綺麗だとか……そういう事を伝えたかった