ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第27章 マタニティーブルー
遠くで鳴いているカモメの声につられて見上げた空があまりにも晴れ渡っていて私は思わず泣きそうになった
あそこを切られても気付かない痛みを前に恐怖しているのも冗談でも何でもない
ずっと平穏な世界に育った私は小さい頃から体調を崩せば当然病院へ行っていたし、出産だって病院で行う事だと当たり前の様に思っていた
例え痛みと戦いながら出産出来たとしても我が子は元気なのだろうか
今私の胎内で問題無く成長出来ているのだろうか
そんな事が繰り返し繰り返しぐるぐると頭を巡る
そんな時に彼は6日間も戻らないなんて…………
『先に片付けなくちゃいけない事があるから暫く留守にするけれど必ず連絡するよ。』
その約束通り、彼は自身の生存と私達の安否確認の為に必ず連絡をしてくれる
フロアには何人いるかもわからない用心棒
彼は相変わらず慎重に私達を守ってくれている
……だけど私にとっては彼の事も心配で
彼にもしもの事があったなら……なんて考えてしまったら鳴らないスマホを握りしめて只願う事しか出来ないのだ
何より大切だと話していた家業より私を選んでくれた事に彼の想いはひしひしと感じているし
一年もの間離れていたのだから想像を絶する皺寄せで、もしかしたら眠れないくらい多忙なのかもしれない事も理解している
その合間を縫ってわざわざ声で伝える通話を選んでくれるのは優しい彼の気遣いだ
この広々とした部屋だって私が躓かない様にいつの間にかバリアフリーな内装を選んでくれていた
彼は私が言わずとも思慮深く、私を………そしてこの子を深く慈しんでくれている
今以上に負担を掛けたくないと思うのは至極本音だった
きっと今仕事にもご実家にも私達にも神経を張り巡らしているであろう彼に不安を口にする事も出来ぬまま………