ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第22章 美景
確かに…………嫌いになってしまえば彼は言葉を尽くす努力も止めてしまうだろう
嫌いになる訳ないよ、なんて事は言ってくれないけれど私は心底安堵していた
まだ手遅れでは無かったのだ
私は拳をぎゅっと握ってから頭を下げた
手遅れでは無かったけれど、それでも彼の心を裏切ってしまったのならば正当な事だ
どれだけ些細な事でも全ては積み重ね
「……本当にすみませんでした!」
「はいはい。」
精一杯反省の気持ちを込めて声を紡げば、彼はしっかりと私を受け止めてくれた
「………………いい加減エレベーターから降りてくれない?」
__________"
久しく足を踏み入れたマンションの一室は、広いバルコニーから街のネオンを美しく煌めかせていた
…………そう言えば初めて此所にお呼ばれした日も雨だった、なんてぼやけた窓の外を眺めながら
ふと蘇った記憶よりも私にしてみれば悲しみに溺れて泣き濡れていた過去の方が新しい
間接照明が灯されればあの日々から何も変わらない上品で広々としたリビングルームが見渡せる
自由に立ち入って良いと言われて管理という名でやけ酒に足しげく通っていた甲斐があり、長らく人の気配が無かったにも関わらず綺麗なままだ
しかしそれよりも先程から彼等の様子がおかしい……………
別に何か話している訳でも空気が張り詰めている訳でも無いが
いつもなら気さくな雰囲気で笑っている筈のクロロさんの横顔に笑顔は無く
使用感の無い真新しそうな人様のタオルを無断で使い髪を拭う彼は流石のフリーダムさだが、いつもの様に用件を急かしたりはしないのだ
何がと言われてもわからないが何かが違うと女の勘が言っている
……とは言っても私には何も出来ない