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ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編

第19章 彼と私のヒトコマ









後部座席のドアを開けばブランケットに丸まった彼女の姿

しかし笑顔が眩しいのではなく、静かな寝息だけが耳を擽った


ドアを閉めきれば妙に生活感で溢れた其処は彼女を閉じ込めるカゴになる

傍に寄って見れば呆れた笑みが漏れた


彼女は以前興奮しながら作った俺の写真集を抱き締めて眠っていたのだ

何が彼女をそこまでさせたのか未だわからないが写真の中の自身にもブランケットを掛ける様にされた其れは随分と間抜けな彼女らしい絵面だった


「本当、下らない事ばかり思い付くね沙夜子は。」


購入したシートを貼る為に前髪を避けてやると僅かに身動いだ彼女

小さくて柔らかい

熱を持った頬が赤みを帯びて唇から漏れた吐息が情事の姿を呼び覚ました


快楽に溺れながらも懸命に自身を求める彼女の姿が脳裏に薫る

脆くてきつく抱き締める事も出来ない儚さで名を呼ぶ唇が酷く愛しくて

彼女のカールした髪を撫でながらいつでも簡単に殺せてしまうと思う

駆り立てられる愛欲に加護心と破壊衝動が混ざった指先で柔らかな唇をなぞった

このまま襲ってやろうか、なんて頭に過る

暗殺者に見せるには何もかもが無防備過ぎる美しい寝顔



彼女の世界は順調に狭まっている

希薄になって行く人間関係

職も無く金も持たず

彼女は今何処にいても自力で生活する術を持っていない

永遠に気付かなくていい

沙夜子はひとりぼっちになったりしないから心配はいらないよ

俺がずっと傍にいてあげる



彼女が怒りを露にした昨日を思い出すと笑みが漏れる


それでいいんだ、沙夜子の中身は俺ひとりで十分なんだから……



穏やかな彼女を眺めながらどれだけ時間が経っただろう




「……………あ、薬。沙夜子、薬飲まなきゃ。」


「………ん」


「薬飲んでから寝て。」


「………んぉお帰りなさい………」


「はい水。」


「ありがとうございます。」


「少し移動するけど寝てなよ。」


「はい」



自身が望んでいるのだから滑稽なんて事は無い

彼女を選んだのはもう手離せない程深い所にいたから

ただの女なんかじゃない沙夜子だから価値がある

他の事は別にどうだっていい程に






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