ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第19章 彼と私のヒトコマ
彼女の荒い息遣いが耳に入り意識が覚醒した
瞼を持ち上げると遮光カーテンに囲まれた狭い空間には暗闇ばかりが広がっていた
自身の目にはそれでもはっきりと見て取れる情景
ポータブル電源で充電しているスマホを手繰り寄せて明るい画面が写し出したのは6時になろうかという早朝の時刻だった
隣で眠っている彼女の苦しそうな息遣いに再び目を向けて頬に触れれば伝わったのは平均体温を上回る熱
どうやら彼女は体調を崩してしまったらしい
上体を起こして乱れた髪をかき上げる
(………こういう時何をするんだっけ。)
ぼんやり浮かぶ薬の存在や水分補給は必須として彼女が如何に軟弱な生き物なのかを思い出す
昨日の見事な憤怒やスケジュール発表時のはしゃぎぶりから一変し、ほんの数時間でこの変貌なのだからいつ何時でも次の瞬間には死んでいるんじゃないかと思わせる
自身には無い繊細な肉体を持つ彼女
流石に今この時突然死んでしまう事は無いだろうが………
……………少し大袈裟だろうか
規則正しく上下に動くブランケット越しの肺の運動を静観しながら小さなため息が漏れた
何をするにせよ道の駅の駐車場にいても意味が無い
この道の駅という場所はサービスエリアに類似した施設だがメインとしてその土地の食材を売っている事が多い
彼女はこの施設が大変気に入っている様子で今日はイモを買う、だとか葉っぱを買うと言って毎朝勇み立っている
彼女は食に強い執着があり、ご当地のご馳走だと騒ぎ立てて夜には全ての食材を嬉々と調理している
車で生活したいだなんて酷く貧相な提案だと思っていたが彼女の新たな一面を知った
大人しく寝ていろと言っても聞かないかもしれない………なんて自身を振り回せるのも彼女くらいのものだろう
彼女が駄々をこねない為にも移動した方が良いと判断し
手狭な車内で彼女を起こさない様に身支度を整えた
カーテンを開けば外はうっすらと朝を知らせている
自身にとって面倒極まり無い不恰好な歯磨きも終えて自動販売機で飲料水を確保した
エンジンを掛ければ振動を始めた車体
とりあえずコンビニに行こう
彼処なら下手に何も揃わない事は無いだろう