ここは私達の世界です【HUNTER×HUNTER】続番外編
第18章 変わり行く心模様
「あ、ひとつ全部食べられそう?」
「……半分こがいい……っです」
「了解。」
小さく息を吐いて背中を向けた彼は肩で風を切り歩き出す
サラリと揺れる黒髪が太陽を反射してキラキラと輝く姿は本当に綺麗で
今の内に泣き止みなよ、と言われている気がして私は青々と広がる空を見上げた
馬鹿みたいに爆発したおかげで随分清々しく見える景色に苦笑いが漏れる
私はきっととんでもなく不細工な顔をしているのだろうなぁ………なんて
彼は私の希望のままソフトクリームをひとつだけ買ってきてくれた
わさび農場らしいわさびソフトクリーム
彼はクリクリとさせた大きな瞳で私を見詰めて実に可愛らしく小首を傾げた
「お待たせ。」
私が彼の前でここまで取り乱して激昂したのは初めての事だった
きっと彼からしてみれば物珍しさを感じたのだろう
今の彼は好奇心のそれとは違う意味で目がランランとしていてまるで猫みたいだ
差し出されたわさびソフトは彼なりの優しさなのだろう
子供みたいに大号泣した私を大好きな食べ物で元気付けようという純粋な気持ち
私は確かに食べる事も好きだし、わさびも好んで口にしていた
彼は流石の洞察力で日々の私の趣向を把握してくれていたのだ
パタパタと靡く暖簾旗の写真と今目の前にある現物をチラリと見比べてからソフトクリームを受け取る
「沙夜子ワサビ好きだよね。」
じっと様子を伺う彼から珍しくもひしひしと感じる気遣いに私は大きく頷いた
「いただきます!」
「どうぞ。」
……………ソフトクリームには有り得ない量のわさびが乗っていた
本来提供されているわさびソフトは薄い緑色はしているけれど流石にすり下ろしたわさびが乗っている事は無かった
スーパーで並んでいるチューブを一本絞った様に堂々たる質量と存在感でソフトクリームに鎮座したわさび
私がわさびを好きだからこその彼流のサプライズ………
一口ソフトクリームを頬張った私に目が眩みそうに眩しくふわりと微笑む彼はやはり優しい人で
そんな彼を見ていたら何故だか鼻が強烈にツーンとしてまた一筋涙が零れた