第23章 出発準備
短すぎたここでの生活もこれで、もう終わりなのだろうか。
改めて経緯を口にすると 我ながら「うちに相応しくない」と言い切ったカルトの言う通りと思える。リネルは自嘲気味に言った。
「殺しますか。私を……」
「何故だ?」
「この家に居るべきではないのかと。……彼、イルミは、有能で大切なご子息でしょうし」
殺すまでいかずとも 追い出されるのか。
そうなったらまた以前の生活に戻るだけ、別に痛くも痒くもないではないか。強がった考えを組み立てていると、頭上から諭すような声が落ちてくる。
「そんな心配をする必要はない。お前がこの家で上手くやっていけるかどうか、俺が知りたいのはそこだ」
「…え?…」
「理由はどうあれ今は家族、家族として気にかけるのは当然だろう」
「…………」
家族、だなんて。
リネルにはまだ耳に馴染みのない言葉をもらいつい固唾を飲む。シルバはリネルに背中を向けて言った。
「家族というのはそういうものだ。覚えておきなさい」
お咎め、切り捨ても致し方ない状況だったろうに。気遣いの姿勢を崩さないシルバの背を見つめていれば、胸にじんわり温かい気持ちが広がっていった。
自室へ戻ってシャワーを浴びた。
濡れた髪を拭いていると 部屋にノックの音が響いた。
「……もう、今度は誰……」
ぽつりと独り言を言いドアを開けると、意外な人物が目の前にちょこんと立っていた。
「カルト」
「もう朝だよ。こんな時間だっていうのに何そのだらしのない格好」
悪態っぷりは昨晩の通りだったが。きっぱりそう言うとカルトはくるりと背を向けてしまう。リネルはカルトを見下ろした。
「カルトは昨日大丈夫だった?」
「ボクがあれくらいでどうこうなるわけないだろう」
「そっか。なら良かったけど」
「…………薬が想像以上に昨日の酒に馴染んで効き目が倍増したみたいだから、まだ初心者のリネルにはかなり応えたんじゃないかって言うか」
「うん」
「だから、えっと……リネルってなんか弱そうだしすぐ殺られそうだし、それに……」
「………もしかして心配して様子見に来てくれたの?」