第22章 悪戯
「…………ん」
しばし眠っていた様子、リネルはゆっくり瞼を開いた。
視界には未だ見慣れない天井が広がっている。半身にふと得る温もりを感じ、ちらりと瞳を向けてみれば 実に珍しく身体を軽く抱き寄せられるような格好で眠っていた事に気付いた。
カルトとの飲み比べ以降の記憶は曖昧だったが、無事に帰路にまでつけたようでまずは安堵し、リネルは再度目を閉じた。
そう言えば、本日からは連休をもらっているし たまにはこのままもう一眠りもいいかもしれないと思う。血の気がすっかり引いた片手を伸ばし、そっと目の前の黒髪を撫でてみる。
てっぺんから後頭部、襟足までをゆっくりと、そこでふと違和感を感じ 再度目を開いた。
「髪切ったの……?」
「誰と間違えている」
「え」
想像とはかけ離れた声がした。
リネルはベッドから跳ねるように起き上がった。ずりずり隅まで身をよじらせて声の主を怖々見る。そこには眉を詰め、あからさまに不機嫌そうな顔をするクロロがいた。
「なっ、え?!……なんでクロロいるの?!ここどこ?!カルトは?!」
「質問を絞れ。ここは酒場の下のホテルでカルトならもう帰ったぞ」
「えぇえ?!ホ、ホテルって?!どういう事?!」
「起きていきなり喚くな。うるさいヤツだな」
クロロは気だるそうにベッドから身体を起こした。
微かに欠伸を噛み殺し、無駄にはだけた逞しい胸元からは惜しみない色香をたっぷり放ってくれているではないか。
そんなクロロに黒い視線を向けられるとリネルの心臓は一気にドクドク動き出してしまう。リネルはあからさまにそこから目を逸らし、身体をきゅっと小さくする。
「えと……なんか色々、迷惑かけちゃったみたいだね……」
「全くだ。潰れるくらいなら最初から飲み比べなんかするな」
「はは……そうだよね……ゴメンナサイ」
まず、この状況はなんなのか。
まさかとは思うが事後なのか。
ちらりと自身の身体に目を落とせば、きちんと服は着ていた事に内心ほっと息をついた。