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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第20章 幻影旅団


「……もしも旅団に入ってたら、か」

今の人生に迷いがなかったと言えば嘘になる。
ずっとクロロの側にいれたらとは過去に散々望んできた事だけにリネルの気持ちは複雑だった。
テラスの柵に頬杖をつく。風に揺れる髪の感触を感じながら、リネルはぽつりと呟いた。

「……人生の選択って難しいな」

大きく息をついた時、 よく知る気配が近付いた。

「おや 今夜は随分 悩ましいねぇ」

「……ヒソカ」

音もなく、隣の柵に肘を持たれかけているのはヒソカだった。

先日会った折 去り際に挑発的な事をされたのを思い出しやや警戒心はあるものの、今のヒソカには不穏なオーラはない。

淡い月明かりに浮かぶヒソカの横顔を盗み見た。鼻立ちの濃い顔付きが深い陰影を刻み、彼の持つ独特の危うさを強調して見せている。
リネルの視線を汲んだのか、瞳だけを伏せるヒソカと一瞬だけ目が合った。

その後のヒソカは何を語るでもなく、リネルの隣に佇んだままだった。


「…………ねえヒソカ」

「ん〜?」

「こんな所で何してるの?」

「幹事サンに呼ばれただけ」

「そっか」

リネルは上半身を静かに倒し、柵に顎を乗せるように寄りかかった。


目の前に広がる夜景はそれは見事だった。
なのにその価値が素直に心に響かないのはリネルの性根が捻くれているせいなのか。

ただわかるのは、無言を貫くこの空間が 違和感もなくとても心地よいと言う事だ。
ヒソカは せっかく浸ったセンチメンタルな気分を邪魔するでもなく、かと言ってお節介に話し掛けてくるでもない。

よく知りもしないヒソカと同調出来ることを不思議に思いつつ、リネルはぽつりと口にした。

「ヒソカって迷うことある?」

「もちろん あるさ」

「意外。……迷ったらどうするの?」

「ボクの好きに、仰せのままに」

「……それって迷ってないじゃん」

あはは、と乾いた笑いが出た。
わかるようなわからないようなヒソカの回答はいかにも彼らしくて その潔さが羨ましくなる。

「例えばね? AとBがあって、Bを選んだけどAも欲しいと思ったら?」

「両方手に入れる」

「選べるのはひとつだけなの」

「なら、ルールの方を壊せばいい♡」

「……ホント ヒソカらしいね。私にはそこまでは出来ないかなぁ……」
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