第19章 お祝い
そして仕事終わり。
リネルはビスケが指定する店に向かった。その店は完全予約制のハンターライセンス所持者専用の居酒屋で、リネルは以前にも職場の宴会で一度だけ使った事がある店舗だ。
ビル上階が居酒屋で、下にはホテルやジム マッサージ店が完備され使い勝手のよい人気のスポットだった。
「ビスケ お疲れ様ー!」
「お疲れ。しかしまぁホントとんとん急展開よねー アンタ」
「私が1番驚いてるけどね」
「ふ〜ん どうだか」
席に着くと挨拶も程々に、ビスケはリネルの指輪を目を止める。丸い瞳を大きくさせて身を乗り出して来た。
「あら、いいのもらったじゃないの!」
「……ああ、これね」
自分で気に入りプレゼントされたその指輪に、ちらりと視線を落とした。キザな渡され方をしただけに 思い出すと顔が熱くなる思いだ。
リネルはそれを誤魔化すようビスケに笑顔を向け、今日の誘いの礼を述べた。
「ビスケ、今日はお祝いにって誘ってくれてありがとう」
「あら、なんかちょっと素直になったんじゃないの?」
「えっ そうかな?!」
きょとんとした顔をするリネルに、ビスケはふふんと含み笑いを返す。
「甘え上手な素直な女は愛されるわさ?幸せになんなさいな」
「いや別に、甘えないけどね」
「そこがダメな所だわさ!リネルの」
「いいの!」
早速飲み物や食べ物を注文し、近々の結婚話やハンター協会の噂話などに面白おかしく花を咲かせた。
◆
ビスケと呑み進めていた折、何やら店の入り口付近がガヤガヤと賑わってくる。リネルはつまみに届いた魚の切り身を取り分けながら言う。
「なんだろう、団体さんかな?」
「そうかもね。でも忘年会の季節でもないとは思うけどねぇ」
ワイワイと騒がしい雰囲気の中で、一際目立っていた声につい耳を傾ける。何やら 聞いたことがあるようなないような、視線もそちらへ飛ばしてみた。
「お前らは何で勝手に缶ビール持ち込んでるの?!あ、ほらそこ!!すぐ喧嘩するなって今日は一応外なんだからさ。も〜うるさいな、とりあえず席着くまで待てってば!」
「…………この声って」
やはり聞き覚えがある。身を伸ばして店の入り口付近を覗いた。そこには想像通りの人物がいるではないか。驚きで目が点になる。