第18章 引っ越し
きっちり書かれた欄を真似るように 自分の名前を記入する。いざ次の項目と思うや否や、リネルは思い切り困惑した。
流星街出身で身寄りもないリネルには、不明な内容が多すぎるのである。
「親…はいないし。…本籍…本籍?…」
「何をブツブツ言ってるの?」
怒り肩で書類と向き合うリネルの肩越しにイルミはこちらを覗き込んでくる。
リネルはゆっくり振り返り、少々きまづそうに言った。
「ねぇ、………もしもこれ受理されなかったら?」
「そうだな、事実婚?」
「あ、なるほど。…ならさ、出さなくてもいいよね?」
「そういうわけにもいかないだろ。税法とか色々絡んでくるし」
「真面目だね、イルミは……」
リネルの手は動きそうもない。小難しい婚姻届に目線を戻し、イルミに対して申し訳なさそうな声を出した。
「そもそもさ、私って戸籍がないんだから受理されるわけがない。ちゃんと書いてもらったところ悪いんだけど……」
「……なんで今頃言うの、それ……」
「キキョウママが昨日“これで正式に”って言ったのはそういう意味だったんだ……」
表情こそ変わらないもののイルミのオーラに少しの冷たさが混ざる。リネルは苦笑いをして言った。
「ま、いいじゃん。……あ、ほら!結婚証明として部屋に飾るとかどう!?」
「やるならリネルの部屋にして」
ぴしゃんと言い放たれるのも想定内だ。
リネルは片方しか記入されていないアンバランスな婚姻届を両手に広げてみる。
「慣れない事ってうまくいかないね……」
「確認不足のリネルのミスだけどね」
「ごめんてば……あ、じゃあ結婚記念日はイルミの誕生日ってことにしようか?!」
「リネルの誕生日でいいよ」
「私、生まれた日もわかんないから……」
「じゃあもう明日とかでいいんじゃないの?」
「適当になってきたね……」
「うん。指定したい日があるならそれでどうぞ」
「いや、特にないのでじゃあ明日で……」
結局、日にちだけが何故か大きめに書かれた婚姻届はしばらくはリネルの部屋に形式的に飾られた。
ままごとのようなその婚姻届を見て、キキョウは大喜びをし、キルアはそれを鼻で笑い、ミルキは面白がって写メを撮るとこになる。