第18章 引っ越し
そして明後日。
仕事の合間をぬって、無事に婚姻届を入手する事が出来た。ついでに仕上がったという婚約指輪も受け取りを済ませてきた。
礼儀としては指輪プレゼントまでのアシストをしてくれたキキョウへの報告だろうかと、リネルはその旨を伝えにゆく。
「まぁ!素敵ねぇリネルちゃんにとってもよく似合っているわ」
「ありがとうございます」
「これでリネルちゃんは正式にイルミのお嫁さんになって、我が家の一員ね」
後は書類提出のみと心で思うが 実際言葉にして言われると、変に照れ臭い。
最近ではそれなりにイルミとはうまくやれていると思うし、他の家族ともそこそこの関係は取れている。
今の所は仕事に大きな影響もなく、当初の約束であった「結婚しても今まで通り」がうまく回っているように思う。
「改めまして、よろしくお願いします!」
「こちらこそ、リネルちゃん。困った事があったら何でも言って頂戴ね」
キキョウはリネルを見て 満足そうに微笑み、声のトーンを高めた。
「早く孫のお顔も見たいものだわぁ」
「…え?」
「あらやだ、私ったら気が早すぎたかしら」
「…あは、どうなんでしょうね…」
「さぞや立派な暗殺者に成長するかしら、ほほ、楽しみだこと」
「…………」
成り行きでの結婚であるのにいきなり子持ちの展開は勘弁して欲しいと心の中で突っ込みを入れた。
キキョウの部屋を出た後はイルミの部屋に向かう。仕事なのか不在であり、とりあえず婚姻届を部屋に置いておくことにする。
◆
翌朝に支度をしていると、イルミが部屋にやってきた。ノックの後で顔を出すと リネルの前に例の婚姻届を出してきた。
「リネルの番、書いたら出しておいて」
「うん」
ちらりと時計をみればまだ時間もある。リネルはペンを取りテーブルに向かうと、婚姻届に目を落とし 物珍しそうな顔をした。
「……へぇ〜」
「なに?」
「いや、イルミってこんな字書くんだなぁって」
「何か変?筆跡って情報多いし最近は滅多に書くことないけどね」
「いや、ううん。初めて見たと思っただけ」