第17章 前払い
思考が現実に戻ってくる。リネルは気だるそうに言った。
「明日…てゆーかもう今日?仕事だ…」
「オレも。2時間後」
「イルミも働くねぇ……はぁ、一旦帰らなきゃ行けないし面倒だなー」
「ウチから直接行けば?」
「やだ。着替えたり支度もあるし」
イルミはこちらに背を向ける。
当たり前に答えを返してきた。
「じゃあもうウチに住む?」
「……え?」
「いずれココに住むなら早くても一緒だよ」
「まぁ……」
「部屋は準備させておくから出れるようになったら教えて」
「うん……」
リネルは仰向けになり高い天井を見つめた。なんだか急に具体的な内容になってきたではないか。
例えば、現在住んでいるマンションをどうしようかと考えてみる。
「……あ、貸出ししようかな」
「なにを?」
「今のマンション。お金もそれなりにあったしこんなに早く結婚するとは思ってなかったから実は買っちゃったの、これからは貸出して家賃収入にするのはどうかな」
「いいんじゃない?リネルらしくて」
何やらとんとん事が進む気がした。
良い案が出れば早くにでも貸出先を探したい所だ。仕事の合間をぬってとも思うが、ふとした登場人物を思い出してみる。
「弟のミルキくん」
「ミルキがどうかした?」
「ネットとか詳しいんでしょ?私のマンションの貸出先探してくれないかな、なるべく条件良く貸出したいし。イルミから頼んでみてくれる?もちろん作業とかの手間賃は払うし」
「その心掛けは合格。でもオレに頼むならミルキへの仲介料」
「ええ〜!?」
「当然だろ。連絡先売るから自分で頼んでみたら?ミルキが引き受けるかは交渉次第だけど」
「……うん。いいよ、わかった。やってみる」
「頑張ってね」
イルミの背中に目を向けた。
シビアな所は徹底してシビアだが、その方がリネルの知るイルミだ。明確な理論のもと、理解し合える関係である方がよっぽど楽で安心出来る。
広い背中を指先でツンツンつついてみる。
「ねー 貸出す前に一回くらい遊びに来る?」
「いい。興味ないし」
「なにそれ、可愛くないなー」
「来て欲しいの?」
「や、やっぱいいや別に」
「そっちこそ可愛くない」