第17章 前払い
「随分キザな事するんだね。意外」
「前払いって事で」
「前払い?」
イルミは再度頭を起こす。やはり眠いのか、細い顎を頬杖で固定していた。
リネルは首を傾げてイルミを見下ろした。
「オレ達考え方とか色々違うし、今後また揉めたり面倒な事になった時はリネルが譲歩してよ。っていう」
「……ああ、そういうこと……」
ふと、本日色々話した内容を思い出した。
平行線とも言える意見相違は今後確かにぶつかる事もあるだろう。妥協や歩み寄りが必要な場面が訪れるのは簡単に想定が出来た。
とは言え 全てを飲むのは部が悪い。少しだけ反抗するよう、リネルは声を高くする。
「……でも、私だって譲れない所は譲れないよ?!」
「リネルはウチに嫁に来るわけだしね。ウチのルールには従ってもらう」
「……なに、ウチのルールって」
「説明しようか?色々あるけど、まず1番は、
「ああ〜 今はいい!後日にして……」
このタイミングでゾルディックの重苦しいお約束の勉強だなんて勘弁して欲しい。リネルは息をついた後、目線を指輪に落として言った。
「まぁ、努力はしますので……」
「うん」
「よろしくお願いします……」
「こちらこそ」
なんだか本当に気恥ずかしい。
その空気を破るよう、リネルはイルミの隣に横になる。顔は相変わらず熱っぽい気がするし 悟られぬようイルミの方へ頭をぎゅうと押し付けた。
「……ありがとう、指輪」
「うん」
「……嬉しい」
「素直だね。珍しく」
「…………………………」
細く柔らかい後ろ髪を、指先でくるりと遊ばれる感触があった。
今この瞬間、前例にないくらいに良い雰囲気だと思った。イルミの言う通り 今のリネルはらしくなくも素直だ。
この空気をイルミはどう受け取っているのか、恐る恐る顔を上げてみる。下げた眉でイルミの顔を見上げてみると、イルミは俄かに瞳を細くする。髪をあっさり離された。
「今日はもうしないよ。さっきヤッたし」
「?!?!な、なんでそうなるの?!」
「違った?ヤりたいのかと思って」
「違うよ!!もう……っ」
延長線上ではそうならなくもないかもしれないが。イルミは身も蓋もない。やはり、いきなりそれらしくはいかないみたいだ。