第2章 指摘
「その小柄な身体のどこに入るの?その大量のお肉」
「ほほっそれは聞かない約束だわさ。ほれ!リネルもちょっと食べなさいな」
「いらない」
「いいから!ほら!」
フォークに刺された肉は見るからに脂がのり胃にこたえそうだ。リネルは嫌々な顔のまま、それを口におさめた。
「……あ、意外に美味しい。」
「でしょ?これお気になんだわさ」
「あーやっぱダメ…脂が後からきた」
「年寄りくさいこと言ってんじゃないわさ」
今朝の遅刻の説教をされるのかと尻込みをしていたが ビスケはころりと笑っていた。それを不思議に思いつつ、自身のプレートの食べ物を少しづつ口に運んだ。ビスケはフォークで器用に食事をしながら、リネルに話しかけてくる。
「なに、アンタ昨日は呑みにでも行ってたの?」
「え?」
「男と」
「……。」
ビスケは急に何を言い出すのか。
少々驚いたが リネルは何食わぬ顔のまま、ビスケに返事を返す。
「呑んではないよ。まぁちょっと人と会ったけど」
「ふうん?昨日は久々の空き時間だったしね。アンタまだ若いしハメ外したいのもわからないでもないけどねぇ」
「別にハメ外すこと何もしてませんが」
「またまたぁ~恋人がいたとは意外だったわさ。アンタ仕事一筋って感じでそっちの方はスキがなさそうだから」
あっという間に食事を終え、緑茶を啜っているビスケは何やら多大なる勘違いをしているようだ。リネルは早速誤解を解きにかかった。
「いないよ恋人なんか。昨日のは全然そういうんじゃないし」
「へ~え なるほどねぇ」
ビスケの表情にからかいの色が浮かぶ。人差し指がぴたりとこちらに向けられた。
リネルは微かに首を傾げ、問いかけた。
「……なに?」
「キスマーク。鏡からは見えない位置にうまーく付けられてるわさ」
「…………………は?」
その指摘には自分でもピクリと眉が揺れるのがわかった。なにせイルミと身体を重ねても、こんな事をされたのはこれが初めてだ。
明らかに図星なリネルの顔を受け満足気なビスケは、少々呆れた声を出す。