第15章 価値観
あっという間に夕方になっていた。
その後、来た時と同様に送迎車に乗りゾルディック家へ帰宅する。屋敷に着くと一番に出迎えてくれたのは 母のキキョウだった。
「おかえりなさい!どうだったリネルちゃん!気に入ったものはあったかしら?」
結果を見れば無事に指輪を選ぶデートは終了した訳で、それを素直に報告する。キキョウは安心した様子でニコニコしながら喜んでくれた。
「良かったわねぇ やっぱり女は生涯大事に出来る指輪をひとつくらいは持っておくべきよ。ねぇお腹は空いてない?お夕食をご一緒にどうかしら」
リネルはまたも笑顔を作る。
横からイルミが口を挟んだ。
「済ませてきたからいい。」
「あらそうなの…まぁたまにはそういうのもいいわよね」
キキョウの声はほんのり残念そうだった。
そろそろ帰宅を提示しようとするが 間髪を入れずに畳み込まれてしまう。
「じゃあリネルちゃん!今日もゆっくりしてらしてね。この前と同じお部屋用意してあるわ」
「え?えっと、今日はあの…」
「……!!ほほ、今日は来てくださってありがとう。ごきげんよう」
「は、はい」
何やら急ぐキキョウの目元は 今確かに謎の機械音を立てていた。キキョウが素早く去った後、イルミが声を掛けてくる。
「顔に出てる」
「え?」
「さすがに疲れたって」
「ウソ、やだ、ごめん…」
リネルは自分の顔を両手のひらでぱんと叩いた。
食事は済ませたというのは この辺りでボロを出しかねやしないと判断したイルミなりの配慮だったようだが、正直少しありがたかった。
今日は帰宅するつもりではあったが、確かに疲れもあるにはあり 泊めてもらうのもいいかもしれないと安堵の思いもある。
「この前の部屋わかるよね。食事用意させるからそこで待ってて」
「うん……ありがとう」
イルミは静かにその場を離れる。