第15章 価値観
「かわいい。これにしようかな」
隣のイルミに伺いを立ててみる。イルミは少し首を傾げて言った。
「なんかこう、普通じゃない?」
「え、そうかな…」
「せっかくだしもっとそれらしい豪華な感じにのにしとけば?」
「…ん〜…」
リネルは再び指輪を見渡した。インスピレーションと建前との擦り合わせはなかなか難しかった。店員はにこりと笑顔を見せる。
「他にも気になる物がございましたらお気軽に仰って下さいね。続いてこちらは、……」
引き続き、丁寧な説明が続く。
「あ、それにしたら?」
途中でイルミが口を挟んだ。
今ちょうど説明されていたその指輪は、立て爪に大きなダイヤモンドが乗るスタンダードな婚約指輪らしいデザインだった。
涼やかな美しさがあり 高い技術による丁寧なカットが特徴らしく “永遠に変わらぬ強い意思”を象徴しているという。
「変わらぬ意思だって。頑固者のリネルにぴったりだね」
「…私も似たようなこと思った…」
この場合は「貴方に永遠の愛を誓います」との愛の意味ではあろうが、読み方を変えればイルミの指摘通り 的外れとは言い難い。
「どうぞ。お付けになってみて下さい」
「ありがとうございます…」
両手で手渡される指輪を、そっと左手の薬指にはめてみた。
照明を吸い込みそれを明るく弾き返す眩しいダイヤモンドを見つめてみる。透明な眩しさに まばたきを忘れそうになる。ビスケが何故 この光る石の虜になっているのかが、少しだけわかったような気がした。
◆
無事に指輪が決まり、ひと段落だ。
店を出るとリネルは早速イルミに声をかける。
「聞いていい?あれいくらだった?高そう」
「金額は秘密。そういうもんでしょ」
まだどこかで半信半疑だったのだが。買ってくれるというのは本当だったようで、リネルは自然と笑顔になる。イルミに向かって言った。
「指輪のお礼に私はイルミに何をしてあげればいい?」
「いらないよ。別に」
「ダメ。それじゃあギブアンドテイクになってないし」
貸しを作るのはどうにも性に合わないので素直にそんな提案を投げた。イルミは少し考えてから 答えを返した。
「じゃあ貸し。思いついたら請求する」
「わかった。忘れないでね!」
指輪の引渡しは後日になるので、本日はそのまま帰宅することになった。