第15章 価値観
そのまま通りをしばらく進むと 目的の店舗が見えてきた。
洗練された外装は上品な雰囲気を醸している。
店内に入ると内装も然り。
外の喧騒を忘れさせるような静かな空間はゆったりした空気に包まれており、つい溜息が出る。ショーケースには煌びやかな宝石やアクセサリーがきっちり並べられていた。
「いらっしゃいませ。」
すぐに男性店員が丁寧な挨拶をくれる。そのまま奥の小部屋に通された。
「本日はどういった物をお求めですか?」
店員は愛想のいい笑顔を向けてくる。
こういった店でジュエリーを購入した経験は過去にない訳で リネルは少しの戸惑いをみせた。横からイルミが答える。
「婚約指輪、いくつか見繕ってもらえる?」
「かしこまりました」
店員は丁寧に頭を下げ、一旦席を外した。
「……イルミ指輪選んでくれる?」
「なんで?リネルのだよ」
あっさりそう返された。リネルは片手を顎に添え小難しい顔をする。
「私、宝石のことはよくわからないし…」
「オレはそれ以上にわからないけど」
こんな事ならビスケが時々語り出す宝石についてのうんちく話をもっと真面目に聞いておくべきだったのだろうか。
考えているうちに 店員は艶やかなベルベット地の上に、数十種類の様々なデザインの指輪を乗せて戻ってくる。
「まずは向かって右手側のものから。ラクシャーレ地方原産の石をベースに、独自製法で切り出した原石を低温比熱処理というか方法にて寝たせた後、…………」
店員は順々に希少価値や石のカット、純度や大きさについてを丁寧に説明してくれる。その説明に耳を傾けながらリネルは並んだ指輪を見渡した。
「あ、これ!」
説明の切れ目にリネルが声を出す。人差し指で指した指輪に、皆の注目が集まった。
緩いウエーブの効いたラインに小さなダイヤモンドが並ぶ細みでシンプルな指輪だ。店員は空かさず解説をくれる。普段からも使える形なので若い女性には人気のデザインだと言う。