第15章 価値観
まるでデジャブだ。
昨夜にヒソカと交わした会話とリンクしてしまった。
リネルとて それなりの考えの元、こうして今まで生きてきた。そこにはプライドも自身の価値観もあり それを簡単に変えるつもりもない。視線だけでイルミに反論を翻す。
イルミはリネルから手を離す。そして一歩距離を取る。リネルはぜいぜいと肩での呼吸を繰り返していた。
「この世界は結局自己責任だよ。死んだら終わりだし弱ければ死ぬだけ」
「っ馬鹿にしないで…私は簡単に死んだりしない」
「どうだか。まぁいいよ、死んだらそこまでって事だしね」
まるで何事もなかったかのように、イルミは再び通りへ足を進めてゆく。
リネルはじんわり痛む首元を何度も何度も撫でつけた。傷よりもイルミの持つオーラの方が不気味で後味が悪い。未だに首に纏わり付いているみたいだった。
この結婚に対して 優しさや温かさは到底求めてはいない。けれど、イルミの容赦のなさは想像通りというか何というか、リネルはつい呆れた声を出す。
「……あのさぁ」
「なに?」
「一応は結婚するんだし嘘でもいいから“これからはオレが守ってやる”とか言えないの?」
「そういうこと言って欲しいの?そんな気ないから言わないけど」
「別に。いらない。全く欲しくない」
「リネルはそうだろうね」
今度こそは遅れをとるまいとリネルは足を早める。イルミに追い付き隣に並ぶと、嫌味を込めて口にした。
「昔はさー可愛かったのにねー」
「何のこと?」
「キキョウママがアルバム見せてくれたから。深窓のお坊ちゃまって感じだった」
「今も昔もそんな変わらないと思うけどね」
見上げる先はイルミの横顔。何を映しているのかもよくわからない瞳はきっとこれからも変わらないのだろう。
「これからも?」
「そうだね」
「結婚してもお互い何も変わらずでやっていきたいけど……価値観の違いって言うのは難しい所だよね……」
イルミの視線が動く。イルミはほんのり瞳を細めて言った。
「リネルが頭固すぎ」
「イルミも負けてないでしょ」