第14章 婚約指輪
「あら!そこは私も大好きなお店なの。素敵な物がたくさんあると思うわぁ」
リネルはキキョウに無言で笑みを返した。
何のことはなく、そのブランドはビスケが新作がどうのこうのでよく画像やら実物やらを見せられた事があり、インプットされていただけだった。
「……わざわざご配慮をありがとうございます。じゃあ、ここで見てみる事にしようかな」
「良かった!素敵な物を選んできたらいいわ」
独り言のようにぽつりと言った言葉をしっかり聞き取り、キキョウは嬉しそうに両手を合わせていた。
◆
食事の後、お茶をしながら再び会話をしている途中 仕事終わりであろうイルミがひょっこり顔を出してくる。
「ただいま」
「あらイルミ。おかえりなさい」
リネルよりも先に、キキョウはイルミに声をかける。キキョウは椅子から立ち上がりドレスの裾を摘むと優雅な仕草で歩みを進める。向かう先は、まさにリネルの目の前だった。
「ね、これから仲良く指輪選びのデートを楽しんでらっしゃいね」
「はい……」
近くで見るとこの母親も異様な雰囲気を醸していて大迫力だ。これはオーラなのか何なのか、薔薇の花に似た甘い香りがする。
視線でイルミを伺えば イルミはイルミで母の出方を探っているように見えた。キキョウもくるりと首を回し、真っ直ぐイルミに目を向ける。その声にはキリキリした棘っぽさがあった。
「いいこと?!?!イルミ」
「…………うん。いいよ、わかってる」
「ほほ 良かったわぁ」
「とりあえず着替えてくる」
イルミはこちらも見もせずに部屋を去ってしまった。
今しがた確かに間があった。それはイルミの無言の抵抗であったのだろうかと そう感じて仕方なかった。