第14章 婚約指輪
翌朝。
リネルは二度目のゾルディック家訪問に挑む事になる。本日は無難に清楚に女性らしく、Aラインの水色ワンピースを着込んでみた。
初めての一人きり訪問ではあるが、今日は前回程の緊張感はなかった。よく話すキキョウには それなりの相槌を返せば会話になるし 同郷出身のネタも助け、比較的会話も合う。
唯一の懸念は食事の毒だろうか。助けになるかもわからないが本日は胃薬や整腸剤、痛み止め等を一通りバッグの中に揃えてきた。
「……よしっ!!」
気合いを入れてから門番の中年男に会釈をし、リネルはククルーマウンテンを守る門を開ける。屋敷までの道筋の記憶はやや曖昧だったものの 何度か行き来を繰り返して無事に本邸まで辿り着いた。
使用人はリネルを丁重に案内してくれる。
長い廊下を経て客間のような部屋に通されしばらくすると、こちらに抱きつかんばかりの勢いでキキョウがやって来た。
「まあリネルちゃん!いらっしゃい。お忙しい所ごめんなさいね、どうしてもリネルちゃんにお会いしたくて」
「いえ。わざわざお呼び頂き光栄です」
仕事柄、外の人間に対しての愛想笑いは慣れている。にこやかなリネルに気を良くしたのか、キキョウはますます口元を綻ばせてくれる。
雰囲気で言えば確実に歓迎されているが 相手はあの有名なゾルディックだ。先日だって予想外の展開はいくつもあった訳で、油断は禁物と自身にきつく言い聞かせた。
「今日はね、一緒にランチを楽しもうと思って。リネルちゃんの為に作らせたのよ」
使用人を先頭にして、一旦別部屋に案内された。そこには既に食事の用意が整えられていた。
華奢なグラスがいくつも並べられカトラリーもとりどりだ。普段ランチと言えば仕事の合間に軽く済ませることが多いので この空気感には気後れをしてしまいそうになる。
「どうぞ。お掛けになって」
言われた通りに席につき運ばれる魚介類の前菜を前にすると、無意識にも初回訪問時の深夜を思い出してしまう。リネルはつい固唾を飲んだ。