第13章 バー
その瞬間、リネルのポケットに入っていた携帯がうるさく震えだした。
ヒソカは一瞬そこに視線を落とす、その隙を逃すはずもなく リネルはヒソカの関節を殴打し素早くその場を立ち退いた。
ヒソカは追っては来なかった。相変わらず余裕めいた表情を崩さないでいた。
「………………っ」
「残念。逃げられちゃった」
「…………………」
「イルミにヨロシクね♡」
「…」
不幸中の幸いと言えるのか否。
ヒソカはあっさりその場を立ち去ってしまった。
ヒソカは少しも本気ではなかったし この場合はあえてわざと、リネルを逃したと言う方が正しいだろう。あからさまな殺気はなかったもののヒソカのことはよくわからないし 下手に関わっていると、スリルと言うには危険がありすぎる展開になるのは目に見えてくる。
ヒソカの姿が見えなくなるまで、ヒソカの気配が消えるまで、リネルは真っ直ぐ夜の闇を睨んだままだった。
深く呼吸をしながらリネルは携帯電話を見た。残る着信履歴はイルミ。もう一度深呼吸をしてから、リネルは電話を掛け直した。
「ごめん電話。ちょっと呑んでたから」
「ふーん 誰と?」
「……イルミに関係ないでしょ」
つい反論的な言葉を返した。
ここで素直に答えるほど純粋な神経はしていない。まして、ヒソカの望むような展開にだけは意地でも持ち込みたくはなかった。
「ま、いいや。明日11時にウチに来て」
聞けばキキョウがリネルとランチをしたいと言っているとか何とか。
イルミはくだんの通り、用件を述べるとすぐに電話を切ろうとする。
「あ、ねぇ待って!」
「なに?」
「あ、えっと……あ、明日イルミは?」
「オレは昼過ぎくらいには帰る」
「そ、そう……」
「忙しいから切るよ」
ブツリと切られた電話を握りしめ、リネルは溜息をつく。進む方向性が間違ってはいないのかが 未だにわからないままだった。