第13章 バー
その後、数時間呑み続け夜が更けた頃に店を出た。
相手はさる事ながら、完全プライベートでの飲酒なんてかなりの久しぶりだった。そういう意味ではそれなりに気を抜けた場になったとも言える。変に気負う相手ではないが、程よい緊張感は保てたわけで 今のリネルにはうってつけだったかもしれないとの思いすら浮かんだ。
「ヒソカ、今日はありがと」
「こちらこそ」
「じゃあね」
「………」
ことは一瞬。
帰路に向かおうと背を見せた途端だった。
急に背中を強く押され衝撃が走る、壁に身体を押し付けられた。頬には冷たいコンクリートの感触が伝わった。
「………っ………何?」
無理やり振り返り犯人を見上げると、ヒソカは相変わらず口元をにやりと歪めている。腕を締め上げられているので、そこからキリキリ痛みが走る。
今のヒソカのオーラは冴えていて狡猾さを潜めている。ヒソカ相手に今日は少し調子に乗り過ぎたかもしれない、そう思うとつい気持ちが負けそうになる。
ヒソカはゆっくり腰を曲げる。耳元に唇を寄せられるとドクドクと緊張感が駆け抜ける。
ヒソカは低い声で囁いてくる。
「リネル……スキがありすぎる」
「……」
「こんなんじゃすぐにヤられちゃうよ?」
「……っ……」
ヒソカの手に力がこもると、腕の骨が軋む。
リネルは下からヒソカを睨み上げ、口元に笑みを浮かべた。
「スキだらけの私をこんな形でただ殺すメリットないから ヒソカは私を殺さない。……違う?」
「キミの腕一本で、楽しいコトが起こるなら悪くはないよ」
ヒソカはどこまで本気なのか、それはリネルにはわからない。絞まる腕にはびりびりとした感覚だけが残り血の気を失ってゆく。ヒソカの声色は毒々しいくらいに怪しい音を刻み、身体の自由が奪われるみたいだった。
「……っ」
「ボクが手を出したと知ったらイルミは怒るかな?」
「……言ったでしょう?!互いの好都合な関係なだけ。私がただのゴミになればイルミは迷わず私を切る」
「もう、キミもイルミも博愛同士で相思相愛じゃないか。妬けちゃうなぁ」
「何、言って……っ」
「試してみようか」
「っ!!……や」