第13章 バー
今は良い機会だ。ヒソカにはそもそも、前々から思っていたことがある。おかわりを注文し終えた後、リネルはそれを言い訳のように一気に口にする。
「……ずっと前から思ってたけど。ヒソカは私を買い被ってる。私は自分が生きて行くのに見合う強さがあればいい。だから純粋に力を求めるとか、修行つむとか、そこまで強い興味はない。ヒソカが求めてるのはそういうのじゃないでしょ」
「だから妥協点で結婚?……まさかと思うけどイルミのコト本気なの?」
「全然、妥協も恋もしてない。お互いの利害が一致したからそうしただけ」
「なるほど♡結局は普通の女のコなんだね」
ヒソカの言い回しはどうにもリネルのプライドを刺激する。きっとわざとだとわかっていても癪に触ってしまう。黙らせる一言を言ってやりたいとは思うが、なかなか上手い言葉が出なかった。
リネルは黙り込んでグラスを傾け続ける。
ヒソカはますます満足そうに表情を明るくする。
「今日はかなりハイペースだね」
「んー、でもヒソカ相手に酔ったりしないから安心して」
「おや、カワイイ事言うね」
「なんでそうなるの」
「だってボクのこと多少なり意識してなきゃ出ないだろ、そのセリフ」
「…………」
「イケないね、奥さん♡」
「まだ奥さんじゃない。」
自尊心を逆撫でした後はからかいの口説き口調、ヒソカのペースで話しているのはいささか疲れてくる。
その場の空気を変えるべく、リネルはにんやり笑みを作る。ヒソカに顔を向けて声を明るくした。
「イルミがなんて言ったか知らないけど、結婚しても何も変わらないよ。ね?」
「なら安心だ」
「うん。だから今まで通りに私を優遇してくれて構わないよ?また欲しい情報でもあったらいつでも使って」
「やっぱりキミにはこういう会話の方が向いてるね」