第13章 バー
忙しない店よりは落ち着ける場所が良い。とはいえ相手が相手だけに そこまでかしこまったロマンティックなムードも必要ない。
うまい具合にバランスの取れるシンプルな外国調のバーに落ち着いた。
カウンター席に並び注文を済ませた後、リネルは早速本日の目的を切り出した。
「……で、話って何?」
「もう本題かい?リネルと会うのも久しぶりなのに」
「あれ?そうだっけ」
リネルはほんのり眉をあげ その話題からとぼけてみる。別に男女の仲でもあるまいし建前や雰囲気は不要だ。
バーテンは素早くカクテルグラスを2つ差し出してくる。ヒソカはそれを勝手にこちらのグラスに傾け「乾杯」と一言述べた。
元々ヒソカのことはよくは知らないが 今夜の彼はオーラも穏やかで上機嫌に感じなくもない。
「……乾杯」
リネルは形式的にそう返し、グラスを傾けた。ほのかに甘いカクテルは舌をじんわり溶かしてくれる。
ヒソカは頬杖をつきリネルの横顔を伺ってくる。
「まぁいいか 本題からいこう。……リネル、ボクに話す事があるんじゃないのかい?」
ヒソカの言葉は矛盾している。リネルは首をくるりと回しヒソカを見返した。
「え?話があるのはヒソカでしょ?何かまた欲しい情報でもあるの?」
「だから、ボクの話って言うのは「キミはボクに話があるはずだ」ってコトなんだけど」
「…………」
リネルの最近の身辺変化と言えば結婚の事であろうか。だがそれをわざわざヒソカに言う義理は無いように思う。
リネルは首を傾げて知らぬ顔で言った。
「んー 話は別に何もないよ?」
「ウソ。……あるだろう?大事な報告が」
「報告?」
「そう」
なぜ知っているのか。考えられる理由はひとつ、リネルから言った覚えはないのだから イルミがヒソカに話したのだろう。
イルミとヒソカがどの程度の仲かは知らないが 律儀に報告しているあたり、イルミらしいと言えなくもない。
ただ、ヒソカのことだ。
それを心から祝福する気持ちなんて更々ないのは見て取れる。ヒソカ相手に何故 面倒ごとを増やすのか、イルミに対して少しの不快感を得た。
リネルは眉を寄せ、ヒソカに目を向ける。