第81章 コミュニケーション/日常
番組が終了する。
リネルは伸びをした後、クッキーを口に放り込み 先ほどの話題を掘り返した。
「どっちが子供を育てるか。こういうの親権争いっていうんだよね」
「争い以前に勝負にすらならないってば」
「戦闘能力だけで見たらそうだけど法的手段を使えば私の方が優勢だと思うよ?仕事上弁護士とかそのへんのコネもあるし。後は特殊な能力を使って強制的に空間遮断とかさ」
「やり方は自由だって言うなら それはウチだって同じだよ」
口に広がる程よい甘みを噛み締める。純度の高いチョコレートと数種類のナッツ、一級品のバターがふんだんに使われたこの贅沢なクッキーは 一口サイズの割には食べごたえがある。リネルは身体を横へ屈めると リオンに真っ直ぐ視線を合わせた。
「でもリオンは私の方がいいよねー?」
「リオンに決定権はないしどっちの方が、とかそういう話じゃないってば」
この手の会話はどこまでも平行線だが 本日はこれでいいのだ。結論を急ぐ気はなく、そもそも親権どうのこうの依然に 揉め事を避け夫婦仲良く円満にいるのが一番だとの リネルなりのコミュニケーションのつもりであった。
イルミの口元へ再びクッキーを差し出せば、隣からはすぐに噛み砕く音が聞こえてくる。
「美味しいでしょ?このクッキー。この前ミルキが大人食いしてて味見にもらったらハマっちゃって。このザクザク感がたまらないよねー」
「ザクザクというより……」
急に黙り込むイルミに横目を向けた。輪ゴムでゆるんと髪を括り下からは赤子にあいあい手を出されながら。オフモード丸出しのまま普段通りのポーカーフェイスで真剣にも見える顔で考えているから イルミはこういう所が何だか少し面白い。
「ゴリゴリ、かな」
「ゴリゴリって……」
「軟骨?違うな、脆い骨というか」
「そっち?!マッチョプロテイン系かと思った……」
「たぁ!あ!」
リオンが下から本格的に手を出してくる。既に離乳食も与えられているし リオンが大人の食べる物に興味を示すのも当然だった。
リネルは用意してあった乳児用の菓子の封をあけ 中身をリオンの手に持たせる。そして大人だけはまた高級クッキーを。まあこれも良くある事だろう。