第81章 コミュニケーション/日常
「普通 輪ゴム使うかな」
「だって今はこれしかないんだもん」
オモチャを奪われたリオンは諦らめがきかないのか イルミに手を伸ばしたまま あうあうと意見を呈している。
「ほら この玩具で遊びなよ。イルミの髪の毛より面白いよ?」
差し出されるのは玩具以前に15cm程のただの石だ。そんな物にリオンが納得しないのは当然で 石には見向きもしなかった。
「何これ?」
「先輩が送り付けてきたの。“どうせ金持ちは人工物ばっか子供に与えてんでしょ”とか何とかって。入山制限の厳しい鉱山で採れるかなり希少価値の高い石らしいけど……正直私にはただの石にしか見えない」
「オレにもただの石にしか見えない」
「大きさの割にすっごく軽くて不思議さあるけどね。こういう天然物にいっぱい触れさせるのが感性を養うのに大切らしいよ」
「いらないだろ。そのうち外で飲まず食わずの狩りごっこやったりするし 石なんて腐る程あるよ」
「だよね」
実に珍しく、夫婦の意見は一致しているようだった。
CMが終わり 番組後半がスタートする。リネルはリオンに謎の石を握らせ横からくしゃっと頭を撫でる。
そして、度々クッキーに手を伸ばす。それをわざとらしいまでの笑顔と共に イルミの口元に差し出した。
「なに?」
「ん?あ~ん て。どうぞ?」
「どうしたの?」
「別に何も?」
「毒でも入ってる?」
「効かないクセに。でもしいて言うなら、愛情?」
「何か頼み事でもあるの?」
「え、これくらいで聞いてくれるなら100万回はやるけど」
「聞くとは言ってないよ」
「まあまあ照れなくていいから。おかえりなさぁい」
柄にもない態度なのは自分でもわかっている。それに対するイルミの反応はいかなるものか 気にならなくはないのだが。なのに結局、感動も何もないまま イルミはクッキーだけを口内におさめていた。
足元には既に リオンの落とした「ただの」にしか見えない石が転がっている。