第80章 棺(ひつぎ)/日常
数日後。
まだハイハイしか出来ないリオンをイルミに抱いてもらい 再び敷地内の“柩”なる公園にやってきた。当然ながら他の利用者はいないし 必要以上の広さが物寂しさを助長する。
到着すると隣を歩いていたイルミが 真っ直ぐリネルに視線を落としてきた。
「オレ柩内で普通に遊ぶってしたことないんだけど具体的に何をすればいいの?」
「遊具とか追いかけっこ?てゆーか私もわからない 公園で遊んだことないし」
緩い返事をした後、 イルミの手の中で指をちゅうちゅう咥えているリオンを抱き上げた。
そのまま10m程真っ直ぐ進み 乾いた地面にリオンをそっと下ろす。そして元いた位置まで戻って来ると イルミに最初の遊びを提案してみた。
「一緒に呼んでみてさ、リオンがどっちの方に来るか競争ね」
「勝ったら?」
「何もないけど。個人的に嬉しいよね」
「あう あーう」
「おいで~リオン~」
すぐに愛くるしい動作でハイハイを始めるリオンを呼べば、リオンはリネル目掛けて真っ直ぐ手足を動かしてくる。
母親の所に来るのは当然でそもそもこの勝負は見えている。これは教育はともかく、育児にはまるで無関心なイルミへの当てつけでもあった。
あと少し、リネルは笑顔でその場にしゃがむと両手を大きく広げた。
「リオンおいでー!」
「たあっ」
リオンが高い声を返してくれれば 意識せずとも笑みが深くなる。リオンを抱き締める準備をしていると、視界の隅に無音のまま腰を落とすイルミの姿が入った。
「おいで。リオン」
「う?」
「ホラ これあげるから」
「あ」
今日は休日、シンプルな私服をさらっと着ているだけに見えたはずのイルミの指先には いつもの武器が一本挟まれ 誘うようにゆらゆら揺らされていた。
好奇心の塊であるこの時期の子には何でもオモチャになり得る。急にそんな物を見せたりすればリオンが興味を惹かれるのは当然で、大きな頭を揺らしながらそちらの方へ向って行ってしまう。