第80章 棺(ひつぎ)/日常
あれから一旦屋敷に戻ると 使用人経由である連絡をもらう。
今夜は半端な時間に帰宅するイルミと、珍しく夫婦で晩餐を共にすることになった。
「今日 柩に行ったらしいね」
「うん…知ってたんだ」
「親父に聞いた」
「そっか」
薄暗く静かなこの場にはリオンは不在、別室で擦った離乳食を与えられた後 もしかしたらもう寝付いているかもしれない。リネルは目の前に用意された食前酒に視線を固定させたままでいた。
同じものをさっさと飲み干した後、イルミは会話を続けてくる。
「大方どんなものか見ておけって所だろうね」
「何でカルトに案内させたのかな」
「あの場所の記憶が1番新しいのはカルトだからじゃない?」
「なるほど…」
昼間のカルトの話を頭に並べていると、イルミが勝手に内容を復習してくれる。
「聞いたかもしれないけど柩はこの家の子供の最初の訓練場なんだ」
「うん。」
「個人差はあるけど2歳くらいからあの場で訓練スタート、3歳頃にはそこそこ本格的になる」
「うん。」
「そして初めての殺しを経験する場でもある」
「うん。」
「大体4~7歳くらいかな これも個人差があるけど」
リネルとて人を殺した事は何度もあるし、初めてそれをした日の事は覚えている。ただ自身の経験と比較すれば ゾルディック家の子の初体験はあまりに早いと感じる。
喉から乾いた声が出た。
「カルトがいい思い出のある場所ではないって言ってた」
「そうかもね。カルトは年齢の割りに進捗度が遅れ気味だった時期があるからその時は結構厳しくやったし」
「…そうなんだ…」
「というか柩にはオレ自身もいい思い出はない」
「そっか」
今度はイルミの手元に無駄に視線を固定してみる。皿の上の料理をナイフとフォークで綺麗に切り分け、淡々と口に運ぶ様子がリネルの視界に映りこんでいた。
「食べないの?」
「…食べる」
イルミの皿の中がほぼ空になる頃 飛んでいた質問に答え、大きくカットしたメイン料理を無理やり口に押し込んだ。
「イルミとカルトはいくつ離れてるんだっけ」
「14」
「それだけ離れてると兄弟というより親子みたいだよね」
「そう?実際オレの子じゃないしよくわからないけど」