第80章 棺(ひつぎ)/日常
カルトはブランコの柵に手を掛け遊んでいるリオンを抱き上げる。急に動きを制限され リオンはジタバタと細い腕の中で暴れていた。
「あう あーう!」
「リオンてぼくに抱っこされるの嫌がるよね」
「大人に抱かれ慣れてるからかな?安定感が違うんじゃない?」
「リネルよりはぼくの方が力あると思うけど」
「それはないよ!カルト試しの門いくつまで開けられるんだっけ?」
「4」
「勝った。私5」
ふふんと笑えばカルトは冷たい目で睨んでくる、スッと細められる目元を見返した。
手足をよじよじ動かしていたリオンがいつの間にか大人しくなる、カルトの顔に小さな両手を伸ばしていた。
「あ~」
「なに?リオン」
「あう あう」
「もう 何なの」
続柄で言えばカルトはリオンの叔父に当たる。でもそれはあまりにも不似合いで兄弟という方が近く見えるし 容姿もどこか似ている気もする。
リネルはブランコまで足を進め、そこに腰を下ろしてみた。
「気になるみたいだよ」
「なにが?」
「カルトのホクロ」
「…ああ これか」
カルトがツンツン顔を背ける事をやめれば リオンはちょんとカルトの頬に掌を伸ばしていた。
「う」
「うじゃない。これはホクロ」
「うー?」
「ホークーロ」
赤ん坊相手に真面目な顔で説明をするカルトが可愛く見えてくる。心でクスクス笑ってしまう。
「カルトは末っ子だから弟が出来たみたいで嬉しい?」
「別に。嬉しくはないけど。実際ぼくの弟じゃないし」
「カルトとリオン、本当の兄弟みたいだよ」
「え、そう?」
「うん」
カルトの目に好奇心が宿るが それは瞬時に摘まれてしまう。憎まれ口は相変わらずでカルトは意地悪く唇に弧を浮かべていた。
「まあ、リオンが兄様似で良かったとは思ってるけど」
「そこはまあ…嫁に来た立場上というか、私も思ってる」
「リネル似なんて最悪だしね」
「…そこまで言うかな」