第80章 棺(ひつぎ)/日常
「暗殺名門のゾルディックの子供でもこんな公園で遊ぶんだね」
「公園じゃなくて柩だってば」
「公園でしょ?どう見ても」
「ウチではそれを柩と呼ぶの」
「ひつぎなんて…似ても似つかない気がする。どうしてそんな名前が付いてるの?」
当然の疑問を投げる。カルトの声がやたらと響いて聞こえてきた。
「最初の人殺しをする場所だから」
リネルは少し眉を浮かせる。涼しい風が過ぎ 木々がザワザワ揺れる音がする。腕の中のリオンだけが あうあうと可愛らしい声を上げていた。
地を蹴るカルトは軽々と身を浮かせ 滑り台の上に移動する。手すり部分に浅く腰掛け、話出した。
「全部の記憶が残ってるわけじゃないけど 遊びだと思えたのはほんの一握り。胃が出る程血を吐いたり骨の歪む音ばっかり聞こえたり、ここにはそういう思い出が強い」
「そうなんだ…」
「ここで最初の訓練、鬼ごっことかかくれんぼとかやらされて 暗殺や戦闘に必要な基礎技術を身に付けるんだ」
「そっか」
嫌悪感や不快感というよりは ひたすら懐かしさを醸し出すカルトを見ながら、カルトの言いたい意図を手繰り寄せ小声でそれを確認した。
「合格ラインの基礎技術が身に付いたら……馴れ親しんだ遊び場で最初の“仕事”を実行するわけだ」
「仕事じゃないよ。そこに依頼主は存在しないし」
「なら実践訓練てところかな」
「うん。その時相手になるのは違反犯した使用人やどっかの罪人だったりするし」
落ち着いた声色で話すカルトを見上げる。
ブランコ、鉄棒、とゆっくり視線を遷移させる様子はまるで 思い出のアルバムでも見ているようだった。
リネルは静かにその場にしゃがむと 腕の中でキョロキョロしているリオンを地面に置く。リオンは怯む様子もなく当たりを見回した後、手足を動かし覚えたてのハイハイでブランコの柵に近づいて行った。
カルトの数倍小さな背中を見ながら リネルは微かな声を出した。
「カルト」
「なに?」
「この箱の中で犠牲になった命おかげでこの家の子は晴れて世に出れる。試験材の命に敬意を込める意味でここは“柩”なんて呼ばれてるのかな……」
「さあ?ぼくはそこまでは知らない」
興味なくそう言った後、カルトはリオンの側にトンと下りた。