第79章 似非イクメン/日常
赤ん坊の小さな口を見つめながら、ヒソカはイルミに一声かける。
「ヨダレ出てるよ」
「え?オレ?」
「ンー なんでそうなるかな」
「ああ なんだリオンね」
「念針を使い例の変装をする際は 顎の筋肉を派手にいじる為口元の締まりが悪くなる」と聞いてもいない説明を述べるイルミは、ファザーズバッグから新しいスタイを取り出す。それをコーヒーで汚れたものと交換し、眠気で頭がくらくら重そうなリオンの口元をちょんちょん拭いていた。
新しく出てきたスタイに 名前とファミリーネームを文字ったイニシャルらしい刺繍が見える。からかう声でそれを指摘した。
「そのコ 名前なんだっけ?」
「リオン」
「それは我が子への リネルのお手製?」
「さあ 違うんじゃない?てゆーかそういう一般的な事をするようなオンナに見える?」
「見えない」
「同感」
ーーー知らぬ所で家庭的スキルは皆無扱いをされるリネルのことは置いておくとして。
あっという間に睫毛を下向きにし ぷすんと寝入っているリオンを横抱きにした後、イルミは冷め切ったコーヒーを飲む。
同タイミングで携帯電話のバイブレーション音が伝わった。イルミは音源を片手に取り、着信に応じていた。
「なに?」
『イルミっ リオンいないんだけど……知らない?!』
電話口から漏れるのは 今しがた話題に登ったリネルの声。イルミは普段のテンションのまま 返事を返していた。
「知ってるよ」
『え?どこ?』
「オレの膝の上」
『何それ?!てゆーかそういう事聞いてるんじゃない!え?イルミは今どこにいるの??』
「喫茶店の中」
『だから!!それはどこなの?!私は地図上の物理的位置を聞いてるの!』
「店の名前? ねえヒソカ ここの店舗名なんだっけ?」
『ヒソカ?!なんでヒソカといるの!!!』
予定の共有が全く出来ていないこの夫婦の会話には 今ではそこまで興味もない。今日はもう十分だと判断をし、ヒソカは静かに席を立った。