第12章 誘い
ゾルディック家への訪問を終えて以降、リネルは再び仕事に明け暮れる忙しい日常に戻った。
日々に追われてしまうとまだまだ結婚に現実味がなく、今までと同じように時が忙しなく流れていくだけに感じられた。
しいて言う変化といえば、ビスケがお祝いにと 切削前の石の塊をデスクの上に置いていったことと、どの筋から情報を得たのかパリストンからの仕事命令に殺しを絡む内容が増えた点だった。
「……リネルさん お電話鳴っていますよ?」
そんな頃のある日の業務中、普段は連絡ひとつよこさないイルミから一本の電話がある。
イルミの名前を見るや否や、思い出すのは最後に会った日の深夜の惨状だ。
リネルはごくりと息を飲み、小声で電話に応じた。
「…あ、もしもし…」
「リネル、次の休みはいつ?」
「…え?なんで?」
「いいから。いつ?」
「…3日後だけど。でも色々やりたいコトあって忙しいんだけど、ダブルの資格欲しいから勉強もしたいし…」
「じゃあ3日後開けておいてね」
「…なんでそういつも唐突なの?そして私の都合はいいの?!」
「よろしく。」
自分の要件を言うなりあっさり電話を切るあたり イルミは相変わらずのマイペースぶりだ。
相変わらず勝手だとは思いつつも、一応休みを確認してきただけ進歩と言えるのだろうか。
「はあ…」
リネルとしては、また面倒な予定だろうという気しかしなかった。
デートの誘いと言えばそうなるのかもしれないが。少しも心が躍らない自分に溜息をつき、目の前の仕事に戻った。