第79章 似非イクメン/日常
「イルミ どういうつもり?」
「何が?」
「その手の中のモノ」
ヒソカは頬杖をついたまま 人差し指の長い爪先でイルミの腕の中をピンと指差した。
「ああ。リオンの事か」
一方の彼は動じる事もなく、真っ黒い双眸で見上げてくる息子をじっと見下ろした後、我が子の向きを変え 自身の膝の上に座らせる。
色白でつぶらな瞳をした性別不詳のその子は 視界がかわり多少なり喜んでいるのだろうか、小さな両手を目の前のコーヒーカップに伸ばそうと必死になっていた。
「あ~ あうあ~」
「子連れで来るなんて聞いてないけど」
「だから用事のついでだってば」
「ベビーシッターの所にでも行くのカナ」
「まさか。リオンは出生育ち一切不明の女が産んだ子だからね。例えばリネルが今までに母子継承とかあり得る念を受けている可能性もゼロじゃない。ハンターなんて仕事してたらもしかしたらオレやヒソカなんかよりもそういうリスク確率高いし 早い段階でそれを検査除去しておく必要があるから ウチかかえの念術師に見せに行く。今日はそのついで」
イルミはじゃれつく子供の手をやんわり静止し コーヒーカップに手を伸ばしていた。
「随分用心深いんだねぇ そんなおつかいならリネルに頼めばいいのに」
「リネルはしばらく外界で働いてないしね。もし途中で何かあったら適切に対処出来るかわからないし」
「相変わらず過保護だな」
「実行可能な危機の回避はしておくに越したことはないしね」
「たあっ」
大人の話は退屈だ、そう態度で示すリオンは指先を 置かれたカップの取っ手にうまく引っ掛け それを勢いよくひっくり返そうとする。ただ、その努力も虚しく 後ろに座るイルミに当たり前に阻まれてしまう。
イルミは持ち上げたコーヒーカップを平然としたまま自身の口元へ運んでいた。
「たあ、あ!」
「何?コーヒー飲みたいの?赤ん坊には苦いと思うよ?」
「育て方に口を出す気はないけど。味以前に飲ませちゃダメなんじゃないの?」
「成分での意味なら問題ない」