第78章 依頼人/裏
「おお来たか イルミ」
「うん」
「すまんのう。今宵は倅が留守故 代わりに孫を同席させよう」
「気遣いは無用だ」
「せっかく用意した宴の場じゃ。気楽に愉しんでくれ」
「ああ そうさせてもらう」
ゼノの便宜的挨拶の後、形式に則った時間がスタートする。
すぐさま使用人の手により 焼き物食器に乗る きめ細やかなジャポン料理が運ばれる。皿の面積を贅沢に使った上品な品々にクロロは当たり障りない感想を述べていた。
この部屋の中で最も上座に位置するクロロに 選りすぐりの酒が丁寧に注がれる。次にはゼノに同じ物、最後にイルミにもそれが用意された。
おそらくは表面上であろうが ゼノもクロロも今日はそこそこ上機嫌に見える。イルミは料理にはさほど手をつけぬまま 辛口の酒を喉に流し、振られる質問にのみ回答していた。
「ヨークシンでオレがアンタに殺られていたらこの場は実現しなかったわけだ」
「心にも無い戯言を。じゃがお主は恨みを買い過ぎ故またいつ標的になり得るかもわからん」
「そうなると骨が折れる。持ちつ持たれつ…とはいかないのか?」
「直に依頼を貰えば大事な顧客、それが終ればただのヒト、標的に変われば殺すまでじゃ」
「正論だが客に対しても勇ましいな。この場にイルミ、お前がいて良かったかもしれん」
「そうだね。クロロを殺れって依頼でもない限りは顧客の安全確保は任意の範囲内だしね」
無難な会話を繰り返す。
このような接待の場に駆り出されるのは初めてではないが 大抵はゼノなりシルバなりが話の切り盛りをきちんとこなす。
何よりこの度の依頼はゼノに舞い込んだものであるし 自身がこの場に呼ばれたのはオマケ程度の比重であると理解している。
イルミ自らあえて口を挟まずとも話は進むし、世辞や時事事項を含めた話をただただ聞いていた。