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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第78章 依頼人/裏


その日の深夜。
イルミは屋敷の廊下を歩いていた。

クロロとは元々、ビジネス上の取引があるだけの間柄であるし 好き嫌いや個人的感情などはない。その筈なのに今夜はどうにも面白くないのは 明らかにリネルのせいであった。

過去の事を今更蒸し返し責めた所で何にもならないのはわかってはいるし そんな気は少しもないのだが、それでも先程のクロロとの話題を加味すれば さすがに黙ってはいられない気分だった。

真っ直ぐにリネルの部屋へ向かい躊躇なく中へ入れば 本人はベッドの上で小さな寝息を立てており、少し離れた所に置かれたベビーベッドでは息子も同じくスヤスヤ眠っている。
一直線にリネルのベッドまで近付き、長身の肢体をそのまま派手にシーツの上に投げた。


「わ……っ?!なに、」


急に男の体重が細い身体にかかったのだからリネルが驚くのも無理はなかった。
すぐに目覚めの声を上げるリネルに少し顔を近づける。ハラハラ額から流れてくる長髪をするりとかきあげ、怪訝そうに眉を寄せているリネルの顔を覗き込んだ。


「イルミ?帰ってたの?」

「うん。だいぶ前にね ちょっと接待に呼ばれてた」

「接待?」

「クロロのね」


想定外の答えだったのか 不機嫌そうだったリネルの表情がふわりと緩くなる。自分には眉を詰めたキツい目ばかりを向けるくせに、クロロの名を出した途端そんな顔をされること事態 俄かに不愉快である。

リネルの視線がイルミの手元に飛ぶ。リネルは再び目元を派手に釣り上げていた。
接待の客間から手にした状態のままであるグラスの中には半分程酒が残っている。中身は先程のダイブでゆらゆら派手に揺れており 中身がほんの少し飛散していた。


「ちょっと、こぼれてる!」

「え?ああ そうだね」

「私のベッドなんだけど!重いしお酒くさい!とりあえずどいて!」


それを無視しダラリと重い身体を預けたままでいると、ジタバタしながらリネルは身体を起こしてくる。

両手で胸元を雑に押し返されれば仕方なしにベッドサイドに腰掛ける形になる。イルミはふうと大きく息を吐き、慣れた仕草で足を組んだ。

リネルは観念したのか仕切り直しの溜息をつく、少しだけ身を乗り出し興味の目を向けてきた。


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