第78章 依頼人/裏
「飲んでたの?クロロと」
「うん」
「…なら私も呼んでくれれば良かったのに」
「接待だから。クロロからは過去に依頼もらった事もあるし今回の件でも単純にうちの客だしね」
「そっか、そうだね…」
リネルの事であるから瞬時に理解はしているだろう。あくまでも依頼人と請負人の関係で成り立つ接待の場に 当事者でないリネルが混ざるのはおかしな話なのである。
ただ、本人は気付いているのかいないのか やや残念そうな顔をするあたりが 正直癪に障る。イルミはそんなリネルの顔を無表情に見下ろした。
ゆっくりリネルに顔を寄せてみれば ピクリと眉間にシワを寄せている。構わずリネルの耳元に唇を落とした、白い首筋と浮いた鎖骨がやたらと今夜のリネルを官能的に見せている。
「飲みたいならオレと飲もうか」
グラスを唇に押し付けてみればリネルは片手でそれを拒んでくる。イルミは代わりに自分でグラスを傾け 高級酒を一口飲んだ。
「飲まないの?結構イケるよ」
「お酒飲みたいとは言ってない」
飲酒自体が目的でないなら 接待の場に呼んでくれたら というリネルの例えの目的は一つに決まるではないか。
イルミは自身の口に酒を含むと それをそのままリネルに口移した。咄嗟のことに目を見開くリネルは不快を隠そうともせず 大きく顔をそらせてくる。
リネルの口端からは生暖かくなる酒が 唾液とともにだらしなく流れていた。
「…っ何するの!」
「飲んだら?これウチが接待で使う2番目に高いイイ酒だし。オレも滅多に飲ませてもらえないヤツ」
「知らないよっ やめて」
「クロロに会いたかった?」
「そうじゃない、けど…」
「…………」
リネルはこちらを睨みながら汚れた口元を手の甲で拭っていた。
この状況下では幼子の小言程度にしか映らないリネルの抵抗が無様に見え、有無を言わさずねじ伏せてやりたくなる。
イルミは再び一口酒を含み リネルの顔を片手で掴み引き寄せる、強引に唇を合わせた。ジタバタ抵抗を繰り返すリネルの鼻を摘まんでやれば リネルは無条件に口呼吸を求めるしかなくなる訳で、喉からコクンと口内の物を流動する音が聞こえてくる。