第11章 真夜中
イルミはリネルの前にしゃがみ込む。何やらリネルの額や首筋に 確かめるよう手を当ててから、顔を覗き込んでくる。
「ちょっと熱あるし脈早いけど 顔色もそう悪くないし瞳孔も開いてない。大丈夫そうだね」
「…大丈夫じゃ…ない、…死ぬ…」
「動き回れるくらいじゃ死んだりしないよ」
イルミはそう言うと、リネルの前に胡座状態で座り込んでくる。そして片腕で頬杖をつく。
「お茶して夕食まで食べたからね。さすがに限界超えたかな?慣れるまでは仕方ないね」
返答はない。
身体を起こしているのが辛いのか、リネルはイルミの肩にもたれかかるとそのまま身体を預けてくる。
「……リネル?」
特に聞かれなかったから言ってはいなかったが。
イルミは仕事が片付いたので たまたまこの場に居合わせただけだった。
仕事上がりの少し解放された気分の折、生足のままの汗ばんだ身を預けられ、耳元で荒い息をたてられるとついそういうコトを考えなくもない。視線を落とせば胸元だって、いい感じにはだけているし ぎゅうとこちらに押し付けられている。
イルミは様子を見るように、リネルにほんのり顔を寄せた。
ただ、挑発的なリネル本人はそんな事は一切関係なさそうで、そのままずるずる身体を屈め イルミの足の間にへたりと倒れこんでしまった。
「運ぼうか。ベッド」
死にはしないが回復まではまだまだ時間を要しそうだ。そう判断し、イルミは自分の足の間に倒れこんでいるリネルに向かって言った。
「起こすよ?」
相変わらず応答はない。
イルミはリネルの腕を掴み、静かに身体を引き起こそうする。リネルはぐったり重力に引っ張られるだけだ。下を向いたまま 小さな声を返してきた。
「…く…」
「え?」
「きもちわるい……吐く……っ……おえ…うええ……げほっ…」
リネルはそのままむせるようにしながら胃の中の物を吐き戻してしまった。
現実を直視したくない。
人の目の前で、まして人様の膝の上に。
さすがにこれはあり得ないとは思いつつも、これだけ具合が悪いと理性よりも生理的に身体が働き、自分の意思ではどうすることも出来なかった。真下の嘔吐物を滲む目で見ながら なんと言い訳をするかを必死に考えていると 上からは呆れた声が聞こえてくる。