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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第77章 希釈/日常


「ふにゃ ふぎゃあ」

「ん?ちょっと待ってねー」


何の変哲もないその仕草と状況の一体どこに見惚れる要素があったというのか。リネルは小さな咳払いを噛ませてから 片手を差し出し イルミに声を掛けた。


「リオンお腹空いてるみたいだから早くちょうだい?」

「こんなもんなのかな」

「何が?」

「希釈度」


ミルクの濃度の話はいいとして、たとえ目にオーラを集中したとしても見た目だけで濃さが正確にわかるとは思えないが。

イルミは手にしていた哺乳瓶を渡してきた。


「さっき執事に聞いたら0.0001%って言ってたけどこの程度で意味があるのかな。医薬って意味では厳密には毒薬指定されてない粒子の細かい植物系のを使ってるって話だったし」

「……もしかしてミルクじゃなくて毒の話?」

「もちろん。体重と一回の摂取量、1日の食事回数に割り当てても随分少ない気がする」

「私はその辺よくわからないけど……」


イルミはさも当たり前に話しているが普通に考えれば恐ろしい、一歩間違えば命に関わる事柄である。用意周到が過ぎるこの家にはつくづく驚かされるばかりだった。「ウチでは皆そうだし当然よ」とキッパリ言い切ったキキョウの声が耳元に思い出された。

哺乳瓶をリオンの口元に近付ければ 血筋なのか赤ん坊ゆえ気付いていないのか、本人は何の躊躇もなくコクコクとミルクを飲みだした。


「赤ん坊の頃はこの程度なのかな。ま、成長に合わせて量が増えるんだろうけど」

「…うわ…コレ慣れるまではしんどいからな…」

「初めの頃はよく吐いてたよね リネルも」

「よくじゃない。イルミの目の前でやらかしたのは一回だけだもん」


思い出したくない過去である、ぴしゃんと言い放った。


「全部飲んだね。リオンはえらいねーすごいね~」


あっという間に哺乳瓶は空になり もっと欲しいとせがむ目でじっと見つめてくる リオンの様子が可愛くて リネルは無条件に笑顔になった。


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