第76章 妊娠記録⑤終わりと始まり
相変わらずイルミは変に真面目であると思いながら、頭の中で名前候補を何度か繰り返してみる。
まだ慣れないし正直どちらもしっくり来ない。ただ、もらった候補をリネル自身が選ぶとすれば 2人で決めたと言えなくもない。おそらくイルミはここまでは考えていないだろうが、互いに慣れない親としての初仕事としては悪くないかもしれないと思う。
決まった名前を口にすることがやや照れ臭く感じられる中、リネルは小声で答えを返した。
「リオンがいい」
「じゃあリオンで決定」
「ホホホ、良かったわねぇお名前も無事に決まって!ねえ私にも抱っこさせて!早く抱かせなさいな」
後ろで待ちくたびれたとばかりにそうせがむキキョウの声がする。イルミの次に抱くのはキキョウかと思うとまた少し複雑ではあるが、イルミの数倍器用にリオンを抱っこするキキョウを見ていると 嫁という立場はそんなものかと悟る部分もある。
弱い息を吐くと、ツボネが横から労いの声を掛けてきた。
「リネル様 お疲れ様でございました」
「いえ、色々とありがとうございました」
「おめでとうございます。ご成長が楽しみでありますねえ」
「ええ、そうですね」
そう言われれば自然と笑顔になる。
「まあリオンちゃん可愛いわねえ よく無事に産まれてきてくれたわね。感激よ、本当におめでたいわぁ……」
コロコロ高い声で話しかけているキキョウを横目に見た後、ツボネはイルミに話し掛けた。
「ようございましたね。万事無事に終わりまして」
「オレは少し負傷したんだけど」
「左様でしたね これは大変失礼を。お手当を?」
「後でいい そんなに酷くもないし。もういいよね」
「ええ ご苦労様でございました」
その場を静かに立つと ツボネは深く頭を下げてくる。その横を無音で通り過ぎながら イルミは先程の続きである父への報告内容を頭の中で確認した。
本日の仕事の件、母子ともに無事な出産の終わりと、産まれた子供の性別と名前、あとは 案の定大喜びをしている母の様子くらいであろうか。
まとめて報告をした後、父親の第一声は一体何だろう。そんな事も考えてみた。
fin