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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第76章 妊娠記録⑤終わりと始まり


結局一睡もせぬまま夜を明かす。

太陽が顔を出す頃、ようやくお腹の中にいた別の鼓動がこの世界で独り立ちをすることになった。
産声とは 膜に響くくらいに大きく元気な声である、と想像していたが 実際の所はもっとか弱く可愛らしい泣き声だったというのがリネルの第一印象だった。

無事な誕生と苦行の終わりに まずは心底ホッとする。
周りの人間の祝いの言葉や何やらは右から左に抜けるような感覚の中にいた。



「リネルちゃん おめでとう。よく頑張ったわね…本当におめでとう…っ」

「…キキョウさんは、よく5回も、これをやり遂げましたね」

「あら。すぐ慣れるものよ 貴女もそうなるわ」

「…それは、ちょっと」


産まれた子が最初の泣き声を響かせる中、イルミを押し退け しっかり手を握ってくるキキョウの細かやな指先を 苦笑いと共にゆるく握り返す余裕が出来ていた。


「おめでとうございます。元気な男の子ですよ」


出血の多い身体と頭はまだ少し朦朧としているが、看護師の声に目を向ける。ここで初めて、綺麗に洗われた後 柔らかそうな布に包まれた赤ん坊と対面することになる。


「わ、小さ……」

「体重は適正値内ですし問題なくお元気でいらっしゃいます」

「そっか。よかった」


今では泣きもせず大人しくしている我が子にそっと手を伸ばしてみる。
それなのに看護師は当たり前にその子をイルミに渡そうとするものだから、リネルとしてはつい思い切り眉を寄せてしまう。


「ちょっと待って。イルミちゃんと抱っこ出来るの?手首は?」

「折れてはいないし軽い炎症くらいだから問題ないよ」

「でもなんか怖い。赤ちゃんの抱っこの仕方なんて知ってるの?」

「さすがにここまで小さい子は抱いた事ないけど 首だけ支えればいいんでしょ?」

「でもやっぱりなんか怖い。それになんでイルミが先に抱っこするの?」

「オレを待ってたらしいし」

「なにそれ」

「ツボネが言ってた」


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