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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第76章 妊娠記録⑤終わりと始まり


無心で力なく見上げてはいるが、実際の所 リネルの胸中は複雑だった。いきなり入ってきたかと思えば、こちらが苦しんでいるのにイルミの余裕綽々な顔付きや雰囲気が気に食わない。

それに何より、イルミが帰るまでにと自分で決めた目標が未達に終わっている。そんな自身への腹立たしさもある。
当たってみた所で何もならないのはわかっていても、今はそれを隠す元気もない。一度離された手をもう一度取られ、汗ばむ掌をイルミの手首に誘導された。


「……なに?」

「指は勘弁して。複雑に壊されると回復に時間かかるし」

「…………」

「この前言ってたね。ハンターとしてまともに動けないこの期間は いざとなればオレになら殺されても構わないって」


妙に感傷的な気分の日、言った記憶はなくもない。こんな時に何の話かと それをゆっくり思い出しているうちに、イルミは勝手に結論を急いでいた。



「この先何があったとしても オレはリネルに命はやれないけど」

「……」

「リネルになら腕の一本くらいはあげてもいいよ」

「……」

「タダとは言わないけど」



可愛げがないのはどちらであろうか。

こちらが提示した命の対価が 有料な上にたったの腕一本とは 随分軽くはなかろうか。一層の事、望み通りにへし折ってやろうとすら思う。


訪れる痛みに思考を遮断される中、そんな事を考えてもみた。



「…そんなの、いらないっ…!」


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