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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第76章 妊娠記録⑤終わりと始まり


「痛いの?」


自然に出た第一声はそれだった。

呼吸の間隔と深さ、瞳の色と視線の動き、全身の筋肉の緊張具合。
仕事柄 人体の、特に痛覚に関連する神経への刺激から起こる身体的変化には そこそこ詳しい方だと思う。

元々、敵か味方かと問われれば後者に近いリネルとは 戦闘をしたこともそういう場面に遭遇したことも殆どない。それ故 目の前でわかりやすく顔を歪めているリネルの姿は、イルミには正直新鮮であった。

出産の痛みとは相当のものだという知識くらいはある。当然体験は出来ないが、リネルの様子からそれがどの程度のものなのかを想像する事は出来る。


「…痛く、ないし…、」

「こんな時も強がり?てゆーかオレに嘘つけると思ってる?」


荒い呼吸に乗せ小さな声で見え透いた強がりを述べるリネルをじっと観察する。力なくベッドに投げられている白い掌に自身のそれを重ねてみる。
手を繋ぐ、とは少し違うが リネルの通常時の体温は知っている。今はそれがかなり高い点からも 心臓収縮の激しさや力む度合いの強さが推測出来る。


「っ、………!」


突如、潰される程の握力で指先を握られるものだから 無意識に堅で自身の手を守った。
不思議そうにリネルの顔を覗き込めば、殺気を放つ一歩手前の形相で きつくこちらを睨んでいる。

察するに、念を嫌がっているのだろうか。それでも力を抜く余裕はなさそうで 爪が食い込むまでにリネルはその手を離そうとはしなかった。


「…出てってよ…気持ち悪い…」

「何それ。ほんと可愛げがないね」


またふっと 手の力が無くなる。
それにしても 一応は付き添ってやっているというのに、出てくる単語には色気もなければ感謝もない。イルミは小さな溜息を吐いた後 先程からのリネルの状態を考察した。

どうやら痛みには波がある様子、次なる間隔の予想を立てながら イルミはリネルの手を離した。


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