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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第76章 妊娠記録⑤終わりと始まり


ツボネはリネルの様子を伺う。気丈に話してはいるが痛さはあるのか、時折下唇を噛んだり お腹をさする仕草を見せている。
小さなガッツポーズをし気合を入れているリネルに 諭すように言った。


「リネル様 スケジュール間の参考にして頂ければと思いますが」

「ん?なんですか?」

「これだけ会話が出来ているうちはまだ到底お産まれにはならないかと」

「…え、…」

「申しましたでしょう?先は長く体力勝負であると」

「…」


冗談じゃない。某然とすると同時に 何故か痛みが強まった気がした。




ベッドの上で何もせず じっと耐えているだけなのに、あっという間に時刻は深夜になっていた。
痛みの強さは右肩下がりで どこまで行くのか想像するのが恐怖であった。この時間だというのに眠気など微塵も感じられぬ程。
リネルは冷や汗をかき 顔を歪ませながら、静かに付き添ってくれている女性の看護師に弱い声を掛けた。


「いつ、産まれるん、ですか…、」

「まだ陣痛の間隔が長めなので もう少しはかかるかと予測します」

「ウソ、も、…ホントに、痛い…」

「人により痛覚の許容値が違いますが、拝見する所 リネル様はそれなりにお強いようにお見受けいたします。さすがはこの家にお越しになられただけありますね」


そんな事を褒められても今は少しも嬉しくない、力なく看護師を見上げていた。
次第に周りの人間に気を配る余裕もなくなってくる。
時々出入りし、様子を見に来るキキョウに愛想笑いを向ける余地も無くなった。




また更に時間が過ぎただろうか。
もうかれこれずっと、ぐたりと憔悴したまま 口先で荒い息を繰り返しているだけのような気がした。


「…、…、」

「間隔もかなり詰まって参りましたね。リネル様 大丈夫ですか?」


痛みに大きな波がある。耐えている時は当然ながら 波が去った瞬間ですら返事を返す気力もない。
ベッドに身体を沈めたまま 汗でベタつく首だけを小さく動かした。


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