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〈H×H 長編〉暗殺一家の嫁

第75章 妊娠記録④おねだり


リネルは背にますます顔を押し付け両腕をイルミの首元に回す。そのままぴたりと抱き付いてくる。


「イルミ お願い。こっち向いて…?」


そう切なげな声でそう言うと イルミは小さな息の後にくるりと身体を返してくる。

薄暗い部屋の中、直線上に視線がぶつかった。
イルミの虚ろな黒い目は相変わらずで、今ではすっかり見慣れていると言うのに 不思議と目が離せなくなる。リネルはイルミに顔を寄せ、小さな声で問いかけた。


「…私 今、どんな顔してる?」

「欲しそうな顔」


返事を込めて顔を寄せれば、優しく唇が触れる。

抵抗も同調もする様子のないイルミは眉一つ動かしはしない。まるで他人事のようなその表情を見たくなくて リネルは静かに瞳を閉じる。そして再び自身の唇をイルミに押し重ねた。


「ん、…っ」


角度を変化させながらそっとそれを繰り返してみる。相手の下唇を甘く挟み、ちらりと覗かせた舌先でイルミの薄い唇を控えめに舐めて見せ そのままゆっくりなぞってみる。何度かそんな事を繰り返していると身体にゾクリと淡い快感が走りだす。

イルミが相変わらず無反応なのを良いことに 下唇に俄かに歯を立てとろんと噛み付いてみる。舌先を口内にそっと押し込み、少しづつその範囲を広げ侵食をする。溶けそうな快楽に懸命に誘っている筈なのに、自分ばかり呼吸が乱れ出してくる。


「は、…ぁ…っ」

「どうしたの?」


片手で頬をさらりと撫でられた、たったそれだけで高揚を感じて堪らなかった。

声も表情も雰囲気も。イルミは普段のままであるが、頬を滑る大きな掌に熱っぽい感覚を覚え 思わずそこに自分の火照る手をきつく重ねた。己の感覚に従い、リネルは切なげに表情を歪めた。


「お願い…もっと 触れて…?」

「今日は随分積極的だね」

「欲しい…っ」

「なにが?」

「イルミの、……念の針」

「それはやらないよ」



顔が重なる。イルミの両手が頬を包み 口内に欲しかった艶かしい感触が訪れる。
確かめるように 互いのそれをゆるゆると絡め合うだけで 鳥肌を覚える。熱を帯びる吐息と唾液が混ざり出すと 目元がリアルに霞んでくる。


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