第75章 妊娠記録④おねだり
当然、イルミとしてはその要求の必要性と目的がわからなかった。リネル本人はふわりと笑ってはいるが、雰囲気は偉く真剣であるから こちらも真面目に返答してみる。
「却下。リネルが持ってても有利に働くもんじゃないし大体あれ単価いくらだと思ってる?素材形状含めて全部特注だし安くないんだけど」
「お願い。一本でいいの」
「無理」
「欲しい」
「やだ」
リネルは口を尖らせる、瞳を半分ほどに細めた。
「…ケチ」
「だってリネルにあげたところで何にもならないし」
「そんな事ないもん」
「なにが」
「…いざって、言う時の…」
小声で言いその先を口ごもっているリネルの横を通り過ぎ 寝室の方へ足を運ぶ。音もなく後ろを着いてくるリネルが、掠れた甘い声を出してくる。
「…今夜は一緒に寝てもいい…?」
夜の時間は極めて無駄なく合理的であり 同じベッドで寝る事は夫婦の営みを意味する、そんな暗黙の了解が割と早い段階で出来上がっていた。どちらかがそれを提案するのは珍しくないにしろ、このタイミングはどうなのだろうと疑問に思う。
イルミはベッドに身体を倒すと リネルに目を向け 口にした。
「眠そうな顔してるクセに。自分の部屋で寝たら?」
「今日はイルミと一緒に寝たいの」
リネルは構わず広いベッドに脚を乗せる。それを避けるようと背を向ければ ピタリと身体を寄せてくる、背中に鼻先を押し付けられる感触があった。
「狭いんだけど」
「いいの」
「ヤりたいの?」
「……」
「部屋戻りなよ」
「嫌」
「今日はいいや」
「なんで?」
「そんな身体じゃ多分勃たないし」
「…酷い事言うね」
「わかったらあっち行ってよ」
「やだ」